本人確認は「干支を口頭で」、書類は紙――地面師を生かし続ける不動産取引の“デジタル化されない現実”:不動産とITのナゾ(2/2 ページ)
不動産の「ミステリー」を専門家がわかりやすく読み解き、AIをはじめITを活用した不動産の近未来を探る。バブル経済の崩壊後、低迷してきた日本の不動産価格が反転上昇し、内外からの投資が盛り上がる中、海外の先進事例なども交えて将来の不動産業界や価格をわかりやすく展望する。第三回は「なぜ現代も地面師が存在するのか」をアナログな不動産取引と登記の側面から深堀りする。
「登記識別情報がなくても登記申請可能」が抜け道に
地面師詐欺を防ぐ対策の一つが、05年の改正不動産登記法で発行されるようになった「登記識別情報(従来の権利証)」だ。この識別情報は12桁の符号から構成されており、パスワード部分が袋とじになっている上、特殊な印刷技術等が必要なため、偽造が極めて難しいとされる。従来の権利証も有効であるため、完全に普及してはいないが、犯罪の抑止力になると期待されている。
しかし、識別情報による対策も万全とはいえない。地面師グループは「所有者が識別情報を紛失してしまった」などと言い訳をして登記申請をしようとするからだ。抜け道になるのが、登記識別情報がなくても法律上、登記を申請できる代替方法だ。方法には「事前通知制度(登記申請後、登記官が名義人本人の真実性を確認する)」「公証人による認証」「資格者代理人による本人確認情報の提供」の3つがあるが、このうち地面師が良く使うのが3つ目の「資格者代理人」の制度だという。
この方法では、司法書士が本人と面談し、本人かどうかをまず確認。その上で申請意思や登記義務者であるかなどを確認して書面を作成する。他の2つの代替方法と違うのは、決済日までに登記申請に必要な書類をそろえられることだ。このため、購入者が代金を振り込んだ決済日に登記申請することが可能で、「地面師ばかりでなく、土地の買い手もこの方法を使いたがる」(溝脇氏)。犯罪グループは、ごく自然にこの代替方法を活用するよう関係者を導くことができるというわけだ。
登記申請して法務局の審査が完了するまで2〜3週間。偽造が明らかになって法務局から土地の買い手に「登記を却下する」という連絡がきたときには、土地代金をだまし取った地面師たちの姿はすっかり見えなくなっている。
アナログな不動産取引が地面師をはびこらせる?
専門家ですら偽造書類を見抜けないのには、「アナログな不動産取引」も密接に関わっている。取引に必要な売買契約書や登記事項証明書(登記簿謄本)、印鑑証明書、住民票など多くはすべて紙ベース。犯罪グループが精巧に偽造しやすくなっている。偽造対策は徐々に取られているものの、多くのアナログな書類は最新技術を生かせていないのが実情だ。
土地所有者の本人確認の方法も「アナログ」だ。所有者が本人かどうかの確認には、生年月日や干支などを口頭で話してもらう方法が取られており、情報を調べて、成りすまし人を訓練すれば、土地の所有者に見せかけるのは必ずしも難しくない。
「土地が人を狂わせる」。ドラマ「地面師たち」の中で、リーダー役の男はこんなセリフを口にする。26年1月1日時点の公示地価(全用途の全国平均)が5年連続で上昇する中、土地を舞台にした詐欺事件はさらに増えていくことが予想される。
地面師詐欺などの防止に向けて、政府は27年4月に改正予定の犯罪収益移転防止法で、不動産業者がマイナンバーカードなどICチップを活用した本人確認を義務化する。不動産業界も過度にアナログな不動産取引を改善し、高度な技術による対策を講じることが、「土地に狂わされた地面師たち」から身を守る重要な取り組みになりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
不動産会社が今もFAXを手放せない理由 DXを阻む“紙と零細”の壁
他の業界では常識なのに、不動産業界では非常識。そんな不動産の「ミステリー」を専門家がわかりやすく読み解き、AIをはじめITを活用した不動産の近未来を探る。第2回は「なぜいまだに不動産取引でFAXが使われるのか」を深堀りする。
なぜアマゾンで不動産は買えないのか? 専門家が解説
バブル経済の崩壊後、低迷してきた日本の不動産価格が反転上昇し、内外からの投資が盛り上がる中、海外の先進事例なども交えて将来の不動産業界や価格を分かりやすく展望する。第1回は「なぜアマゾンで不動産を買えないのか」を深堀りする。