「赤」と「緑」を見分けられる仕組みを世界初解明、色覚障害の理解へ一歩 名工大や東大などがScience誌で発表:Innovative Tech
名古屋工業大学、東京大学、京都大学などの共同研究グループなどがScience誌に発表した論文「Structural insights into spectral tuning and retinal exchange in cone visual pigments」は、ヒトを含む霊長類(実験ではマカクを採用)が赤と緑を見分けられる仕組みが、原子レベルの立体構造解析によって世界で初めて明らかになった研究報告だ。
Innovative Tech:
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
名古屋工業大学、東京大学、京都大学などの共同研究グループなどがScience誌に発表した論文「Structural insights into spectral tuning and retinal exchange in cone visual pigments」は、ヒトを含む霊長類(実験ではマカクを採用)が赤と緑を見分けられる仕組みが、原子レベルの立体構造解析によって世界で初めて明らかになった研究報告だ。
ヒトを含む霊長類が色を認識できるのは、目の中に赤、緑、青の光に反応する3種類の「錐体視物質」という光受容タンパク質があるためだ。このうち、赤と緑の視物質はタンパク質を構成するアミノ酸の配列が約96%同じであるにもかかわらず、それぞれが吸収する光の波長には約30nm(ナノメートル、1mの10億分の1)という明確な差がある。このわずかな違いがどのようにして赤と緑の識別を可能にしているのかは、色覚研究における四半世紀にわたる謎であった。
研究チームは、クライオ電子顕微鏡という技術で錐体視物質の暗状態(光を受ける前の状態)の立体構造を解析し、さらに量子化学計算や変異体実験を組み合わせることで、この謎に迫った。
その結果、光を直接キャッチする「レチナール」という分子自体の形はどちらもほぼ同じであったが、レチナールの周囲では、赤の錐体視物質と緑の錐体視物質で3つの特定のアミノ酸が異なっていることがわかった。そして、赤の錐体視物質に特有のアミノ酸が、レチナールの周りの電気的な環境(静電環境)を微妙に変化させていることが判明した。
つまり、タンパク質内部のアミノ酸の向きや電気的な性質という微細な違いこそが、赤と緑を分ける波長差を生み出していたわけだ。
この立体構造からは、明るい場所で素早く色を見分けるための仕組みも明らかになった。錐体視物質には、膜の側面に「横穴」と呼ばれる構造的な空隙がある。暗闇で働く別の視物質(ロドプシン)にも見られる、古いレチナールを排出するための横穴はすでに発見されているが、今回の研究では錐体視物質にはレチナールを取り込む第2の横穴がある可能性も示された。しかもこの取り込み用の経路が、光を受ける前の暗状態からすでに開いていることもわかった。
さらに、錐体視物質は光を受ける前から、素早く反応できるように少し柔軟な準備状態をとっていることも確認された。これらは、日中の明るい環境下で絶え間なく目に入ってくる光に対して、瞬時に反応し、センサーの部品を素早く交換し続けるための仕組みだと考えられる。
今回の研究により、目がどのようにして精緻に色を見分けているのかが、物理的な立体構造として証明された。この成果は、ヒトの色覚多様性(先天赤緑色覚異常など)が生じる仕組みを分子レベルで理解する助けとなるだけでなく、視覚疾患の病態解明や創薬研究への貢献も期待される。
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