ペンコンピューティングの過去・現在・未来――Windows XP Tablet PC Edition開発者が語る(前編:進化編)インタビュー(1/2 ページ)

Windows XP SP2に含まれる形でリリースされたTablet PC Edition 2005の改良点、ここに至るまでの経緯、そしてタブレットPCの未来をマイクロソフト米国本社の開発者に聞いた。まずはTablet PC Edition 2005の進化のポイントとアプリケーション環境について説明を受けた。

» 2004年11月12日 14時17分 公開
[大出裕之,ITmedia]

 Windows XP SP2に含まれる形でリリースされた、Windows XP Tablet PC Edition 2005(以下Tablet PC 2005)。今後出荷されるタブレットPC製品に搭載されるほか、Windows XP SP1ベースのタブレットPCをすでに持っているユーザーには、SP2へWindows Updateをすることで、自動的にインストールされる。SP2は無償なので、Tablet PC 2005へのアップグレードも無償ということになる。Tablet PC 2005での改良点、ここに至るまでの経緯、そしてタブレットPCの未来をマイクロソフト米国本社の開発者に聞いた。まずはTablet PC 2005の進化のポイントとアプリケーション環境について説明を受けた。

 今回話をうかがったのは、米マイクロソフト・タブレットPCグループ、プログラムマネージャの瀬戸哲夫氏。ペンコンピューティングの登場以来、ずっとペンコンピューティングの開発をしてきている人物としても有名だ。

最大の進化点、「タブレットPC 入力パネル」

――Windows XP Tablet PC Edition 2005最大の目玉は、なんと言ってもタブレットPC 入力パネルの進化ですね。

瀬戸 そうですね。バージョン1(最初のWindows XP Tablet PC Edition、以下同)開発直後から改良点のプランニングが始まりました。ベータテストやユーザービリティテスト、マイクロソフト日本法人のユーザーからの改良要望でもっとも高かったのは、タブレットPC 入力パネル(以下、入力パネルという)が画面下部に固定されているという点です。もちろんフローティングに切り替えることもできたのですが。この改善要求は非常に高かった。これが、これからお話しする、8つの改善点の最初の1つです。

 どういうことかというと、バージョン1ではアプリケーションにテキストを入力する際、入力パネルが画面下部に固定されていました。そのため、まず入力パネルに下を向いて書き、その後「送る」ボタンを押して、テキストをカーソル部分に送るという操作を繰り返して、入力するようになっていました。ユーザーは、下を見る、上を見る、この動きを繰り返す必要がありました。PDAなどで、すでに手書き入力を経験されている方は、ご存知のように、この方法は今までの手書き入力製品に共通のユーザーインタフェースです。しかし、これが果たして最適かどうか、ずっと疑問を持っていました。PDAのように画面が小さい場合はともかく、タブレットPCでは、改良する余地が大きかった訳です。

――縦画面、横画面の切り替えが出来るタブレットPCを縦に使った時には、特に、目の上下運動の幅がより大きいという点はありますね。

瀬戸 その通りです。これを改善するのが、Windows XP Tablet PC Edition 2005(Tablet PC 2005、以下同)の「インプレイス・ティップ」という機能です。テキスト入力が可能な場所、あるいは、カーソルが出ているところにペンを近づけると、入力パネルが出てきます。バージョン1のように、入力パネルに、ユーザーが注意を移動するのではなく、テキスト入力するところに入力パネルがついて来るという感じですね。文字を書くところとテキストを入力するところとの距離を縮めることで、認知負荷をできるだけ無くしましょう、というのがこの新機能のポイントです。

ペンを検索窓に近づけて入力パネルのボタンが出現したところ

Windows XP Tablet PC Edition 2005が実際に動く様子はこちらの記事も参照していただきたい

 2つ目は、長文でもストレス無く入力したい、という要望に答えることでした。日本語で言うワンセンテンスは、20から25文字くらいです。これをバージョン1のタブレットPC 入力パネルで書こうとした場合、入力パネル上に出てくる文字を書く枠の数は、初期設定で6つから7つくらいです。ですから、25文字を入力しようとすると、7文字×4回、書いて送ってを繰り返す必要があります。作業的にもわずらわしいのですが、手を動かすうちに、思考が中断されて、何を考えていたのか忘れてしまうということにもなる。この、認知負荷は大きいです。

 これを解決するのが2つ目の改善の「オート・グロー」という機能です。書いていくと、画面いっぱいになるまで、必要なだけ枠が増えていきます。手や思考を止めることなく、長文を書くことができるようになりました。

 バージョン1の入力パネルでは、枠ありの「文字パッド」と「ソフトウェアキーボード」の2つのモードがありました。Tablet PC 2005には3つのモードがあります。枠ありの「文字パッド」、「ソフトウェアキーボード」、そして、枠なしの「手書きパッド」です。

 枠ありといっても、Tablet PC 2005の「文字パッド」の枠は、上側をカットし、マス、というイメージを少なくしました。ユーザーからのフィードバックの一つに、マス内に書かなくてはならないと常に注意しているのがつらい、というものがありました。確かに、バージョン1でも、枠の大きさはオプションで自由に設定できたのですが、枠を十分に大きくすると、手を動かす距離が大きくなり、使いにくくなります。実は枠を完全に取った訳ではなく、ソフトウェアの内部処理としては枠を基準に動いていますが、この枠から少しはみ出したとしても、書けるようにしているのです。

文字パッド

――枠は厳密ではない、ということですね。

瀬戸 はい、使ってみるとこの自由度が結構大切だということが分かります。枠があってその中にきちっと書かなくてはいけないというと、使い勝手に影響するのです。インタフェースデザインも、「文字パッド」の場合、枠があるのかどうかわからないくらいファジーに見えるようになっています。

――そこは枠なしの「手書きパッド」との違いですね。

瀬戸 そうです。その、枠なし「手書きパッド」が、3つめの改善点です。「手書きパッド」は、全体で1つの枠でしかない。結構賢いことをしているんですよ。これはユーザーインタフェースの改善もさることながら、文字認識エンジンの改善があったからできた、といったほうが当たっています。

 一文字づつの枠がなく、ちょうど、横長の紙に書くようにユーザーは、自由に書くわけですから、認識エンジンが賢くなくてはいけない。一番のポイントは、文字と文字の切れ目を区切るときの処理です。例えば、「明日」という言葉を、枠なし「手書きパッド」で、等間隔に、日、月、日と書いたとしましょう。この場合に日月日と認識するか、明日と認識するかを決めるときに、物理的な位置関係の情報だけでなく、言語情報も使っています。言語情報を手書き文字認識に取り込んだというのが、4つ目の改善点で、弊社のかな漢字変換の技術を持っているチームと協業の成果です。

手書きパッド

手書き認識エンジンも改良

――かな漢字変換の言語エンジンなのですか?

瀬戸 いえ、全く同じ物を使っているのではありませんが、共通の基礎技術を使っています。かな漢字変換で使っている言語処理の部分、言語解析の部分、このロジックを手書き認識エンジンに取り入れていています。

 「明日」を枠なし「手書きパッド」で書いた場合、日、月、日の三文字が十分離れていれば、日、月、日に認識されますが、くっついて書かれ、かつ、三文字が等間隔で書かれた場合、どう認識すべきか。日月日という言葉は辞書にはありませんが、明日、であれば辞書にあります。つまり明日のほうが日本語として確率が高いので、明日と認識するようにしています。枠なし「手書きパッド」に書かれた複数の文字を、言語として、どこで切るのがいちばんもっともらしいか、ということまで考慮して、手書き文字を認識しているということです。

 更に細かく説明すると、手書き認識エンジンはインク情報を渡されると、どういう切り方がいいのかという計算を、バックグラウンドで行います。ただ物理的な距離でどれとどれが近いからということだけではなくて、どこでインクの塊を切るか、切ってみて、それを言葉として考えた時に意味があるのかどうかと計算して、意味がなければ、また、別のところで切ってみる。これを、繰り返して、認識結果を出しています。言語情報を取り入れるというのが、この枠なしモードの認識率を上げるのに必要なことでした。

 5つ目の改善点は、崩し字のサポート強化です。枠ありの「文字パッド」しかなかったバージョン1を使っていらっしゃったユーザーの方が、「Tablet PC 2005の文字認識はすごく認識精度が上がった」と感じられる一番の理由はこれです。

――認識エンジンこそが手書き入力の進化にもっとも大切だということでしょうか。

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