第2回 Windows Aeroの謎に迫る:元麻布春男のWatchTower「Windows Vista編」(1/2 ページ)
PCウオッチャーの元麻布春男氏が、さまざまな切り口で最新PC事情を分析する本連載。第2回目は“Windows Aero”の謎に迫る。
意外とおとなしい!? Windows Aeroの動作条件
6月8日付けで、Windows Vistaのベータ2(Vista β2)によるカスタマープレビュープログラムがスタートした。すでにインストールした、という人も少なくないことだろう。このβ2の完成度が高いと見るか、まだまだと見るかは人それぞれだが、評価の分かれ目の1つは、インストールした環境がWindows Aero(Aero Glass)を実行できるものかどうかにある気がしてならない。
Vista β2を導入すると、ハードウェアの環境により、Windows Aeroを有効にするかどうかをWindows自身が自動的に判断する。最初からAeroが有効な状態でVista β2がインストールされるには、いくつかの条件を満たさなければならない。グラフィックス以外の部分の要件としては、
- 1GHz以上のCPU
- 1Gバイト以上のシステムメモリ
- 40Gバイト以上のHDD(空き領域15Gバイト以上)
とかなりおとなしい。グラフィックスについても、「要求」として公開されているものは、
- WDDM(Vistaのディスプレイドライバモデル)準拠のディスプレイドライバ
- DirectX 9(Pixel Shader 2.0サポート)級のGPU
- 32ビットカラーのサポート
- 解像度に応じたグラフィックスメモリ
- 以下で説明するグラフィックス性能
というところ。メモリ容量も解像度が1920×1200ドットで128Mバイトと、これまたおとなしい(シングルディスプレイの場合)。
性能についても、グラフィックスメモリの帯域が1600Mバイト/秒以上となっており、これまたそれほど無茶な数字ではない(Pixel Shaderの性能は二義的であるとされている)。この数字、メジャーなチップセット内蔵グラフィックスでクリアできるように設定されたと言われており、最近のスタンドアロンのグラフィックスカードであれば、まずこの制限に引っかかることはないはずだ。
意外なところに潜むWindows Aeroの落とし穴
Windows Vista β2をテストした環境(当初) | |
---|---|
マザーボード | Intel D975XBX |
CPU | Pentium Extreme Edition 3.46GHz |
メモリ | 2Gバイト(DDR2-667) |
グラフィックス | GeForce 6800 GT(256Mバイト) |
解像度 | 1600×1200ドット(32ビット) |
HDD | Maxtor MaxLine III SATA 250Gバイト |
Windows Vistaのインストール標準状態でAeroをイネーブルにできない最大の障壁は、おそらくWDDM準拠のディスプレイドライバがあるかどうか、ということだろう。あまり古いチップではDirectX 9に対応していない(とくにチップセット内蔵グラフィックスの場合)ので論外だが、新しすぎてもVista β2に標準添付のドライバが対応していない。幸い、NVIDIA、ATIともVista β2対応のドライバをリリースしているから、インストールデフォルトでAeroが有効にならなくても、ドライバを更新すればAeroを有効にすることは可能だ。
問題は、有効にしたAeroのパフォーマンスにある。上にAeroを利用する際の「要求」(つまりは最低条件)を記したが、現状のAeroはこのスペックではまったく歯が立たない印象がある。冒頭でインストールした環境がAero互換かどうかで評価が分かれるのではないか、と述べたのは、なまじAeroが利用可能な環境を持っている方が、Vista β2に対する評価が厳しくなると思えたからだ。
右上の表は、筆者がまずVista β2をインストールしてみた環境だ。一部、あまりもののパーツを流用しているため、ハイエンドとはいかないが、まぁそこそこ速いマシンのはずである。少なくともWindows XPベースで使う限り、3Dゲームも含めてあまり困らないマシンだ。
ところが、この環境でAeroが有効なVista β2は、ほとんど使い物にならない。ちょっとアプリケーションを動かしただけで、左の画面のようにデスクトップコンポジションを無効にするか、という警告が表示される。極端な場合だと、アプリケーションのウィンドウをマウスでつかんで、デスクトップ上でグルグル振り回すだけで、この警告が表示される始末だ。
もちろんこの時点で、この警告にあるように、システムのパフォーマンスは極端に低下している。が、警告に言われるように、同時に実行しているタスクが多いわけではない。上の画面はタスクバーを見れば分かる通り、ブラウザを1つだけ開いて、NVIDIAのサイトからドライバをダウンロードしているだけだ。これでタスクが多いと言われては、VistaはシングルタスクOSなのかと嫌みの1つも言いたくなる。
このデスクトップコンポジションというのは、Aeroの技術名のようなもの。Aeroでは、アプリケーションの描画をまずバックバッファに描き、それをフリップ(ディスプレイ出力されるフロントバッファに切り替えること)して、画面描画を行う。CGアニメーションでは普通に使われる手法で、描画の途中をユーザーに見せないため、ティアリングやチラつきといった画質低下を防ぐことができる。デスクトップコンポジションを止めるということは、Aeroを無効にすることと等しい。
解決方法はきわめてシンプルだった。が、しかし……
ここで使っていたグラフィックスカード(GeForce 6800 GT)は、2年前のハイエンドモデルだ。確かに最新の製品ではないが、256Mバイトのグラフィックスメモリが、GPUに256ビット幅で接続されている。帯域的には前述の要求を軽々とクリアしているし、メモリ容量的にもテストした解像度(1600×1200ドット)に不足はないはずだ。Pixel Shaderの性能も、最近のハイエンドには遠く及ばないものの、チップセット内蔵グラフィックスにヒケをとることはない。このカードでAeroがまともに動かないのであれば、現時点でAeroがまともに動くチップセット内蔵グラフィックスは存在しないだろう。
では、現状のVista β2においてAeroをまともに動かすにはどうすればよいのか。答えは極めてシンプルだった。512Mバイトのグラフィックスメモリを搭載したグラフィックスカードに交換すればよいのだ。上記の表のグラフィックスカードを、512Mバイトのメモリを搭載したGeForce 7600 GSのカードに差し替えただけで、デスクトップコンポジションを無効にするかと聞かれることはピタッとなくなった。
GeForce 7600 GSは確かにGPUとしては新しいが、メインストリーム向けのチップであり、決してハイエンドの製品ではない。GPUとグラフィックスメモリの接続(バス)も128ビット幅だ。トータルでの性能は、ということで2枚のカードについてWindows XP上で簡単なベンチマークテストを行った(Vistaはまだβ2なので、ベンチマークテストは実行しないのが「お約束」)。その結果を下にまとめた。このテストを実施する際に冒頭の表のシステムに加えた変更は、Windows XPのインストール用にハードディスクを別に用意したこと(HGST HDS722580VLSA80、グラフィックスのベンチに影響はほとんどない)くらいのものである。
その結果は一目瞭然で、ここで実施したベンチマークテストの結果では、いずれもGeForce 6800 GTが上回った。2年前のハイエンド(といって上から2番目のグレードだが)は、一般的なベンチマークテストの結果を見る限り、今のメインストリームより上なのである。
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