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第6回 AMDのATI買収劇が意味するもの元麻布春男のWatchTower(2/2 ページ)

PCウオッチャーの元麻布春男氏が、さまざまな切り口で最新PC事情を分析する本連載。今回は“電撃的”に発表された米AMDによる加ATI Technologies買収劇の意味を考える。

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長期的にはグラフィックス機能がGPUからCPUに移る可能性も

開発コード名Torrenza(トレンザ)のダイヤグラム

 今回AMDが、従来から関係の深かったNVIDIAではなくATIを買収したことについて、買収価格がNVIDIAに比べて安かったから、ということが言われている。もちろん、それがなかったとは思わないが、ノートPC用チップセットという分野でATIの方が優れた製品を持っている、という事情もあったのではないだろうか。AMDはかねてより、チップセットビジネスには進出しない、と述べてきた。しかし、ノートPCという分野を攻略するには、チップセットをやらざるを得ない、ということではないかと思う。

 チップセットをやる以上、内蔵グラフィックスは避けて通れない。Intelは過去に2社グラフィックスチップベンダーを買収しており(Chips & TechnologiesとReal3D)、現在内蔵グラフィックスを含めたグラフィックス市場シェアでトップの座にある。ATIの買収は、AMDに欠けていたグラフィックス技術を入手するという点で最適だと考えられる。もちろん、先日のアナリストミーティングで発表されたTorrenza(Hyper-Tranport用ソケットの実装)に対応したグラフィックスチップの投入もあり得るだろう。

 また、長期的な視野に立つと、グラフィックス機能がGPUからCPUに移る可能性も否定できない。現在CPUはデュアルコアからクワッドコアへと移行しようとしているところだが、この後もコア数を増し、マルチコア、メニイコアへと進もうとしている。問題は、コアの数やトランジスタの数ではなく、それをどう使うか、というところへ移ろうとしている。グラフィックス機能に特化したコア、あるいは汎用のシンプルなコアに最適化したグラフィックスライブラリを用意する、というのは1つの方向性だろう。今回の買収に伴うWebキャストにおいても、かつて独立していた数値演算コプロセッサが今では内蔵が当たり前になっていることを引き合いに出して、CPUがグラフィックス機能を内蔵する可能性が示唆された。実際、Torrenzaが可能であるということは、マルチチップパッケージを前提にすれば、時間をおかずグラフィックス機能をCPUに内蔵することもできる、ということになる。

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GPUにとってのターニングポイント

 グラフィックス機能がCPUに取り込まれる可能性の一方で、現状のグラフィックスチップ(GPU)は、ある種の壁にぶつかっている。現在、ハイエンド市場に君臨するのは、NVIDIAのSLIやATIのCrossFireといった、複数のグラフィックスカードを利用した技術だが、こうした大艦巨砲主義的な物量投入一辺倒がまかり通っていることも、この分野の行き詰まりを物語っているように思えてならない。

 IntelのPentium 4/Pentium Dは、100ワットを超える消費電力の大きさが問題となり、路線変更を余儀なくされた。しかし、100ワットのCPUが許されないのなら、1枚で150ワットを消費するようなグラフィックスカードも許されないはずだ。ましてやそれを2枚、4枚と搭載する、というのでは、つじつまが合わない。おそらくCPUが路線を変更したように、この1~2年でGPUも路線を変更することになるだろう。今回の買収を後から振り替えると、そのターニングポイントという風に映るのかもしれない。

元麻布春男氏のプロフィール

フリーライター。IBM PC/AT互換機以前からPCの世界に入り、さまざまなメディアでPCに関する評論やレビュー、コラムなどを執筆。とくに技術面での造詣が深く、独特の切り口による分析記事は人気が高い。

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