「新しいThinkPad X1 Carbon」開発チームに聞く、“あのキーボード”に込めた意図:変わらず、変わるThinkPadの姿(4/4 ページ)
「新しいThinkPad X1 Carbon」は、先代よりボディを薄型軽量化するとともに、2560×1440液晶、新Adaptiveキーボードを搭載するなど大きな変化を遂げた。この変化の意図とは。ThinkPadシリーズの開発担当エンジニアに開発背景を聞いた。
見え方と新体験を工夫した、新タッチ対応ファンクションキー「Adaptiveキーボード」
ITmedia キーボードといえば……忘れてはいけませんね。特に大きく変わったタッチセンサーキー「Adaptiveキーボード」をはじめて採用しました。
ハードウェアキーとしてのファンクションキーの代わりにタッチセンサーキーを配置し、ホームモード/Webブラウザモード/Web会議モード/レイフラットモード/ファンクションモードなど、使用するソフトウェアやディスプレイ開度の状態に応じて動的に機能が切り替わる──というものですね。こちらはどのような経緯で生まれたのでしょうか。
レノボ・ジャパン ノートブック開発ソフトウェア担当の河野純也氏(以下、河野氏) ひとことでいえば、新しいユーザー体験の提供のためということになります。弊社にはユーザー体験を研究する部門がありまして、アイデアはそこから出てきました。
いろいろな地域で長期に渡る調査をした結果、PC単体にそれほどこだわりがない方(例えば、会社から貸与されたPCを使用している層など)は、ファンクションキーを使ったことがない/何のためにあるのか分からない、それがいくつかの機能を兼ねていること(Fnキーとの組み合わせでボリュームや明るさを調整する機能など)がいまいち分かりにくいという声がありました。このニーズへの答えとして、そのときにユーザーが必要とするアクションをAdaptiveキーボードにより視覚的に表示し、直感的に扱えるよう工夫した機能を取り入れることにしました。
ITmedia Adaptiveキーボードはどんな構造になっているのでしょうか。
米田氏 表面はアクリルパネル、続いてタッチセンサー、半透過型の液晶を挟んで、一番下にバックライトがあります。光源は無機ELを採用しています。
ITmedia なるほど無機ELを。メリットはどこにあるのでしょう。
米田氏 アイコンとして視認性がよいことがあります。はっきり見えるようにしたいが、ギラギラしすぎては逆に見にくい。ちょうどよい感じに面で発光することを重視しました。無機ELは消費電力も低く、発熱もない、薄く作れることなども採用に至った理由です。
アイコンの表示にはかなりこだわっていまして、周辺の環境が変わってもちょうどよく見えるよう、照度センサーを活用して表示の明るさも自動的に変えています。液晶は半透過型で、バックライトを抑えて反射光を利用して表示することにより、屋外でも見やすいよう工夫しています。
ITmedia 消費電力はどのくらいなのでしょうか。
米田氏 タッチセンサーの制御も含めれば最大で0.1ワットくらいです。表示だけならそれよりもずっと少ないです。全体的なバッテリー動作時間への影響はほぼないと見なせるくらいと思います。
ITmedia 見た目以外で意識したことはありますか?
河野氏 ファンクションキーモードについては、F1からF12まで、これまでの物理キーと同じ間隔で配置しました。F1~F12キーを使う人にとって、少しでも違和感をなくしていただくための配慮です。
また、感度の調整にも気を使いました。実は開発当初、ディスプレイを閉じようとすると(内部の部品によって)静電式タッチセンサーに反応してしまう、というこれまでは考えもしなかった課題が出ました。こちらは、ユーザーの指による操作なのか、ディスプレイ部の接近によるものなのかを検知するロジックを入れることで解決しました。
ITmedia なるほど。ところで今後のThinkPadシリーズは、ファンクションキーをあまり重視しない考え方なのでしょうか。
米田氏 ThinkPad X1 Carbonは先進性を求めるハイクラス層向けのシリーズです。このAdaptiveキーボードも冒険的な試みの一貫という位置付けです。今後のThinkPadシリーズすべてがこの方向性でいくということではありませんが、先進性を求める方には、とくにこの新しい使い勝手もぜひ試していただきたいですね。
自ら適応を検討するに値する魅力を備えた、プレミアム志向のモバイルマシン
Adaptiveキーボードのインパクトが強烈な「新しいThinkPad X1 Carbon」だが、これまでのThinkPadと変わらぬ堅牢性や使い勝手に対するこだわりが込められていることを改めて確認することができた。
最厚部17.7ミリ、約1.28キロの薄型軽量ボディ(タッチパネルなしモデルの場合)は、ThinkPad史上、かつてないほどにデザインチームの意向が強く反映されているというだけある。実に美しく、所有欲を刺激してくるたたずまいだ。14型で2560×1440ドット(画素密度約210ppi)の高解像度表示に対応したIPS液晶ディスプレイ、公称約14.3時間のバッテリー駆動時間(構成により変化)、心地よいタッチ感を変わらず提供するキーボードも大きな魅力だ。
一方、これまでのThinkPadシリーズに慣れ親しんできたコアファンにとっては、ファンクションキーの実質廃止や変則的なキー配置は歓迎すべき要素ではないかもしれない。ただ、単に流行を追ったのではなく、そこにThinkPadシリーズとして“業務効率を高める”ことを目的にした機能であることは旧来のユーザーも理解していただけると思う。それだけで選択肢から外してしまうのは少し惜しい。このため、実利用においてどうかの部分は、実際に使ってみないと判断できないかもしれない。実機での詳細な検証は改めて行いたい。
ともあれ、PCに望む利用シーンも変化しつつある中、“もっと挑戦を”の面を具現化したのが新しいThinkPad X1 Carbonである。よい意味で積極的に歩み寄って適応できるであろう人にも向けた、「変わらず、変わるThinkPad」を具現化する「これからのPC」としての魅力を備えた新世代のビジネスマシンと言えるだろう。
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