CESで見た「スマートグラスの可能性」を考える:西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(2/2 ページ)
2012年にGoogleが発表した「Google Glass」からスマートグラスはどう進化したのか。CES 2019で最新ARグラスを取材した西田氏が今後の課題や可能性を探る。
メルカリは「指さし」UIをスマートグラス用に開発
スマートグラス用のUIとしては、メルカリの研究開発部門「mercari R4D」の試みも興味深い。同社はCESのVuzixブースに共同出展し、将来的なメルカリでの利用を想定したスマートグラス上でのUIを披露した。
操作はごくシンプルだ。目の前にあるものを指さすと、指さしたものを画像認識し、その価格や詳細な情報をポップアップする。指をサムアップするとその商品がブックマークされる。展示されたアプリには実装されていないものの、指を2本立てて動かすことで、スマートグラス内に表示された商品の3Dオブジェクトを回転させてディテールを見る、といったこともできる。
CES会場は無線通信環境が劣悪であるので、全てのデモは、Vuzix Bladeのプロセッサを使った、いわゆる「エッジAI処理」で行っている。実際にサービス展開するときはクラウドと連携することを想定しているという。
画像認識で商品の名前や価格を検索、という手法は珍しいものではない。だが、このUIの特徴は「指さしたものだけを検索」するようにすることで、シンプルな操作とプライバシーへの配慮を両立したこと。同社がこうした技術を開発しているのは、スマートグラスやAR内でのUIを考えることが目的だ。同社は、このデモで使ったものをはじめとしたUIについて、既にパテントを申請済みだという。
「見やすさ」担保にはメガネメーカーとの協業が必須か
CESで展示されたスマートグラスは、デザイン面で長足の進歩を遂げたものの、どれもまだ課題を抱えている。一番分かりやすいのは「熱」と「消費電力」だ。小さなプロジェクターとCPUを内蔵している関係上、スマートグラスをかけると、微妙にこめかみのあたりが暖かい。夏などはちょっと厳しいかもしれない。バッテリー動作時間はどれも2、3時間というところで、1日かけっぱなしとはいかない。
だが、そうした部分は進化によって改善する可能性も高い。一方で、当面一番の問題は「見やすさ」だ。プロジェクターなどで光を眼前に投射するデバイスである関係上、映像が見える範囲はまだ狭い。20度から30度、というところなのだが、それも「最適な状態で」という部分がある。「メガネ」であるので、視力矯正用のメガネとの併用が難しい、という問題もある。
そのため、Nreal Lightは視力矯正用のレンズを別途挟む構造になっているし、North Focalsは「直営店で顔の形状と視力を測って、カスタム製作する」といるやり方を採用している。デバイスが進化し、より柔軟性の高い機器が出てくる可能性も高いが、どちらにしろ、「属人性の高いデバイス」になる可能性は高い。
だからこそ、こうした状況を見て、「スマートグラスやARグラスは、メガネメーカー・量販店などとの連携が重要になるのではないか」という思いを強くした。大手メガネメーカーは、どこもスマートグラスの研究を行っている。だが、今後はそれだけでなく、スマートグラス・ARグラスのベンダーとの協業も進むのではないだろうか。
メガネ市場は人口に対して比例するため、現在のところ、劇的な成長が難しくなっている。だが、スマートグラスのように単価が高く、「メガネを必要としていなかった人もかける」用途が開拓できるなら、話は大きく変わってくるだろう。
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