5つの視点で振り返る「Apple Watch」のすごさ:林信行が読み解くApple Watch5周年(5/5 ページ)
Appleのスマートウオッチ「Apple Watch」が、2020年4月で発売5周年を迎える。登場前と登場後で何が変わり、これからどこへ向かうのか。林信行氏が解説する。
利用者の命と健康を守る初めての道具
2017年、ニューヨークのPodcastプロデューサー、ジェームズ・グリーン氏が驚くべき報告をする。Apple Watchによって自らの命が助かったと言うのだ。当時のApple Watchはまだ心拍数の異常を検知してくれなかったが、HeartWatchというアプリが異常を教えてくれ、病院に向かい命を救われたのだと言う。
その後、AppleはApple Watchに「心拍の異常を通知する機能」や「転んだ後、無事の確認をしないと救急連絡をする機能」などを次々と実装した。
やがて、「Apple Watchに命を救われた」という作り話のような出来事を半年に1度くらいはニュースで読むようになった。
2019年のApple Watch発表会で、Appleは同社に送られてきた数々の感謝の手紙を送り主の物語と一緒にビデオにして紹介した。
「命を救う」機能は、さすがに従来の腕時計にはないし、最近の他のスマートウォッチでもそういう話は聞かないApple Watchならではの実績だろう。
そんな体験をするユーザーは、一握りという人もいるかもしれない。確かにその通りだ。
しかし、それ以外でも多くのユーザーが、毎日、Apple Watchのおかげで少しだけ健康な日々を過ごし寿命を伸ばしているかもしれない。
何せApple Watchでは5年前のデビュー当初から、ユーザーの「健康」を保つことを重要な機能の1つとみなしていたからだ。Appleは、健康機能のためにTVを通して全米で有名なフィットネスインストラクター、ジェイ・ブラニク氏を登用。彼の監修で、もしかしたらこの5年間のフィットネス業界における最大の発明の1つかもしれない「アクティビティ」機能を発明している。
このアクティビティは、ユーザーに特別なエクササイズを求めず、日々の生活の中で適量の運動を促す機能だ。
あらかじめ目標設定したカロリー消費、30分以上の激しめの動き、そして1時間に1回は座りっぱなしを解消して立ち上がるという誰でも無理なく達成できるゴールで完成するリングを3つ用意し、「あれ? 今日、ぜんぜん身体を動かしていないな」を可視化してくれた。
特に偉大だったのは、日本では知る人が少なかった「座りっぱなしでいることの害悪」を周知してくれたことだろう(これは、コロナ禍で外出自粛がつづく今こそ重要な機能だろう)。
日本は例外だが、海外のApple Watchでは簡単な心電図も取れ、医療用ほど正確ではないが日々の生活の中で心電図が取れることに価値があると、米国の医療業界からも高い評価を得ている(機能は日本語化されているが、日本では厚生労働省の規制で利用できない)。
最近では、長時間の騒音で聴力が低下することから耳を守ってくれる機能も搭載された。
こうした標準の健康機能に加え、さまざまな種類のエクササイズに対応し、正確なカロリー消費を予想し、心拍数を記録してくれる「ワークアウト」アプリもあり、最近ではスポーツジムなどで使われる一部のエクササイズ機器との連携も始まっている。
Appleは、新型コロナウィルスの流行のはるか前から、これからは健康こそが大きな価値を持つ社会がやってくることを予見し、この5年間、それを実現する機能の発明と改良を続けてきたのだ。
もちろん、市場には差別化のためApple Watchにはない健康機能を搭載したスマートウォッチもある。だが、iPhoneとAndroidの比較と同様に、Appleの製品は常に多くの人を満足させる機能をバランス良く、使いやすい操作性で提供しているのが魅力となっている。
また売り上げ世界一ということもあり、例えば糖尿病患者のためのCGM(Continuous Glucose Monitoring:連続グルコースモニター)などの医療/ヘルス機器も海外では連動できるものが多い。
まだ活用こそされていないが、血中酸素濃度センサーなども初代Apple Watchから部品だけ内蔵されていると言われており、今後もさらに多面的にユーザーの健康状態を監視してくれることに期待が持てる。
本体のサイズ、素材そしてアームバンドによる多彩なバリエーション。これまではAppleが選んだ組み合わせで買う必要があったが、自由な組み合わせで買える「Apple Watch Studio」が2019年にスタート。Web画面上では画面でコーディネーションを確認でき、店頭ではさらに試着もできる
小さいながらも、これだけ多くのビジョンと作り込み、実績と夢が詰まったApple Watch。次の5年はAirPodsとの連携やSiriの進化などにも注目したいが、世界を襲った新型コロナウイルスの大流行で、Appleの側も消費者の側も、実はこれまで以上に注目するのが、その「健康」機能になるのかもしれない。
最後に、ぜひとも次のApple Watchの発表までには、世界全体でコロナウイルスの広がりが一段落してくれていることを祈りたい。
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