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スパコン「富岳」×モーションキャプチャで見えた金メダルへの「空気のつかみ方」(1/2 ページ)

2月6日に開幕した「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」 。日本のお家芸ともいえるスキージャンプに注目が集まる中、スーパーコンピュータ「富岳」を駆使した興味深い研究成果が発表された。その分析結果とは何か。

 2月6日から、「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」が開幕した。日本人選手によるメダル獲得が期待される中でも、注目される競技の1つがスキージャンプだ。2大会連続の金を狙う小林陵侑選手や、4度目のオリンピック出場となる高梨沙羅選手など、7人の代表選手が挑むことになり、メダルラッシュに注目が集まる。


スーパーコンピュータ「富岳」

スパコン「富岳」を使った動作解析プロジェクトの成果を発表する北翔大学 生涯スポーツ学部 教授の山本敬三さん

「富岳」が解明したスキージャンプの“勝ち筋”

 こういった中で、日本が世界に誇るスーパーコンピュータ「富岳」を使って、スキージャンプに関するデータ科学と空力シミュレーションを融合した動作解析プロジェクトが推進された。

 小林陵侑選手、二階堂蓮選手、高梨沙羅選手、伊藤有希選手の4人のオリンピック代表選手を始めとして、550回以上の初期飛行局面における姿勢変化動作データを取得した結果、7つの「飛行スタイル」に分類。オリンピック代表選手を含む国際的なトップスキージャンパーが主に採用している「飛行スタイル」が、4つに集約できることが明らかになったという。

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 また、今回のプロジェクトでは、富岳向けに独自開発したシミュレーション技術を活用しており、飛行中のスキージャンパーに作用する空力特性を評価することができたという。

 北翔大学 生涯スポーツ学部の山本敬三教授は、「スキージャンプは飛翔するために空中に伸び出す競技(飛翔競技)であり、パフォーマンスを向上させるためには、風を味方に付ける必要がある。わずかな姿勢の違いが空力特性に大きく影響を及ぼす。姿勢の傾き角度や、体幹を起立する速度など、さまざまな要素が流体速度を変える。選手が自分のスタイルを知り、将来的には何を変えればいいのかといったことを提示したり、筋力を付けたり、身体の動かし方を変えることで、最適なスタイルに移行できるようにしていきたい」とした。

 このプロジェクトは、理化学研究所(理研)計算科学研究センター(R-CCS)と北翔大学、神戸大学が共同で実施した。

 スキージャンプでは、踏切直後から安定した飛行姿勢に至るまでの初期飛行局面の姿勢変化動作が、パフォーマンス評価において重要な指標の1つになっている。だが、この局面での姿勢変化動作を客観的に評価することは容易ではないという課題があった。


初期飛行局面の姿勢変化動作データ

 理化学研究所、神戸大学、北翔大学では、2022年2月に「まるごと空力シミュレーション」を発表した。ジャンパーの周辺の気流の状態を可視化し、空気力を算出することに成功している。

 ここで活用したフレームワークは、三次元表面形状スキャンを行うと共に身体に17個のモーションセンサー、スキー板に2個のモーションセンサーを装着し、ジャンパーの姿勢を計測する。これらによって得られたデータを元に、関節角度変化のデータを付与した三次元CGアニメーションを作成し、富岳を用いて数値流体解析を実施した。


三次元表面形状スキャンを行ったフレームワーク

 北京オリンピックの金メダリストである小林陵侑選手と、コンチネンタルカップなどで活躍した選手のデータを比較したところ、ジャンパーを持ち上げる「揚力」、空気抵抗を示す「抗力」、揚力を抗力で割ることで飛行性能を評価できる「揚抗比」を分析。小林陵侑選手の場合は、初期飛行ではテイクオフ直後に揚力/抗力/揚抗比が急増し、その後、抗力だけが減少するなどの特徴が見られたという。

 この結果をベースに、フライト姿勢を形作る過程には多様性があるという仮説を立て、個々の選手に適した運動戦略があることを想定し、それらの研究に取り組んだのが今回のプロジェクトになる。

 まずは、初期飛行局面の姿勢推定を行うためにマーカーレスモーションキャプチャーを採用し、10台のカメラを使用して複数の方向から選手の姿勢を撮影した。そしてモーションキャプチャーアプリの「Theia 3D」を使用し、姿勢推定と動作分析を行った。

 札幌市にある宮の森ジャンプ競技場のノーマルヒルのジャンプ台を使用し、男子選手50人、女子選手24人の74選手を対象に、合計556回の試技を計測した。ジュニアやシニア、国内レベルや国際レベルなど、多彩なジャンパーが参加したという。


モーションキャプチャーアプリの「Theia 3D」を使って競技を計測

 ここでは関節角度など、19種類の姿勢データを抽出しているという。

 この姿勢データを元に、正準相関分析やガウス混合モデルといったデータ駆動型統計解析を行い、動作スタイルの分類を実施した。

 「正準相関分析では、姿勢時系列データから各関節角度の飛距離への貢献度を算出し、ガウス混合モデルでは、各関節角度の飛距離への貢献度をベースに動作スタイルを分類した。主観による分類ではなく、データによる客観的な分類を行っている」という。

 分類結果に対しては、理化学研究所が富岳向けに独自に開発した大規模熱流体解析技術を活用してシミュレーションを行ったという。姿勢推定と動作分析によって、7つの動作スタイルに分類ができたと明らかにした。

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