前回はITmediaでPC USERやデジカメプラスを中心に活躍しているプロカメラマンの矢野渉氏が、カラーマッチングの重要性を訴え、デジタルカメラで撮影した写真、液晶ディスプレイの表示、プリンタの色合わせを実践した。専用のカラーマッチング/キャリブレーションツールなくしては、正確な色合わせは極めて困難、ということを理解していただけたのではないだろうか。今回は話をさらに進め、Web用の色環境を構築していく。
←・実物と写真と画面と印刷の色が合わない悩みに:デジカメ好きなら“カラーマッチング”ツールをすぐに導入すべし!
プリントは、写真作品を発表するやり方としては古くから一般的だ。大きく引き伸ばしたプリントは、絵を鑑賞するのと同じで、見るものを素直に感動させる。しかし問題はそれを展示する場所である。期間を決めて展示スペースを確保するとなると、それなりのコストがかかる。また、観覧者はその場所を訪れるために時間を割かなければならない。一般的な写真好きの方はもちろん、いわゆるハイアマチュアの方々も、かなりの枚数の自信作がストックできなければ、写真展を開催する気分にはならないだろう。
ところがネットの時代になり、新しく出現した写真の発表手段が、写真データをWebにアップする方法である。すでに実践されている方も多いと思うが、個人のブログやSNSに写真を置いたり、無料のWebアルバムに作品をアップするのはもう普通のことになっている。また、より手軽にTwitterを使って、撮影した写真をほぼリアルタイムで配信しているようなケースも増えている。
こうして、自分の写真を世界に向けて簡単に発信できるようになったのはよい面もたくさんあるが、フィルム時代から写真に精通している人ほど複雑な感情にとらわれるだろう。写真をより多くの人に見てもらえるのはうれしいが、本当はファインプリントで鑑賞してほしい、というのが本音ではないだろうか。デジタルデータを四角いドットで表したWebの写真には、何か「真実味」が欠けているように思える。
僕もそう思う。Webの時代になって「写真」というものがどんどん軽い存在になっていくようで、寂しい気分になっていたのは事実だ。しかしこれも時代の流れ、前向きにとらえるしかない。新しい作品をどんどんWebにアップして、評判のよい作品を集めて「いつか写真展を」と考えるのが正しいのではないだろうか。
前回行ったカラーマッチングは、プリントを前提としたものである。これはこれで「正しい色」であることには間違いない。おそらく読者の中にはこれで満足して、このままWebに写真をアップしてしまう人もいるだろう。
しかしそれは間違いだ。多くの場合は気が付かないだけで、色に対してシビアな被写体に関しては、液晶ディスプレイの発色がまったく違うものになってしまうことも少なくない。Webで写真を公開するには、プリントとは違う作法があるのだ。世界に向けて写真作品を発表するなら、プリントを発表するのと同様に細心の注意が必要になってくる。
ここで再びナナオの27型ワイド液晶ディスプレイ「FlexScan SX2762W-HX」とカラーマッチングツール「EIZO EasyPIX」(ソフトウェアver.2.0)を使って、プリントとWeb、それぞれのカラーマッチングの方法を実践し、その違いを確認していきたい。
従来、このような繊細なカラーマネジメントはそれなりにコストがかかるものだったが、EIZO EasyPIX(ver.2.0)の出現により、低価格で確実な選択肢が出てきたのは、喜ばしいことだ。
まずは作例に使う被写体の選定だ。ここは個人的な趣味だが「黄色」にこだわってみたい。僕は中学、高校とずっと美術部に所属していて彫刻と油絵をやっていた。油絵に専念してからはひたすら「黄色」で描いていた。おそらくゴッホに影響され、あの荒々しい原色のタッチにあこがれていたせいだろう。
ひとくちに黄色といっても、その種類は多い。僕はことにホルベインのYellow系の絵の具が好きで、全部で10色ほど持っていた。微妙な差があるさまざまな黄色で絵を描いていた僕は、黄色にはうるさいのだ。
そんな僕が、黄色い電車が印象的な西武線(西武鉄道)の沿線に住んでいるのも何かの縁だろう。被写体は西武線の車両に決めた。鉄道マニアではないから、細かいところまでは分からないが、色だけは真剣に見てほしいと思う。
西武線の車両を撮影しよう出かけると、駅の売店でよさそうな鉄道模型を見つけた。おもしろいので、ちょっとした色見本代わりに購入しておこう。実際の車両は日光や雨風の影響で少し色があせたり、変色していることが考えられる(それも味だが)。模型のほうがより本当の色に近いのかもしれない。
まず模型をスタジオ内でしっかりホワイトバランスをマニュアルで取って撮影。その後近くの踏切で黄色い実車の撮影へと入った。30分ほど粘って、行き先の表示まで同じ、同型の車両を撮影できたのはラッキーだった。実物を見てみると、確かに模型の色に近く、この黄色はなかなかよい。
撮影が終わったら、PCにデータを移し、模型のほうの色を参考に、RAW現像時の実車の色を決めていく。実車の撮影時に日光でホワイトバランスを取っていたので、それほどの差はない。まずこの2つのデータを、前回の要領でプリントしてみよう。友人関係に見せる「ミニ写真集を作る」という想定だ。
早速、EIZO EasyPIXのソフトウェアを立ち上げ、「キャリブレーションモード(上級者向け)」の「写真を見る/調整する」設定を実行後、写真データのRAW現像を完成。次に「マッチングモード」で「紙白測定」をし、模型と画面の色を見比べながら「微調整」した後、プリントという流れだ。
結果そして、ほぼパーフェクトに液晶ディスプレイの画面とプリントのカラーマッチングができた。この作業(環境光やソフトウェア側の設定なども含む)は前回の記事で紹介した通りなので、説明は割愛する。
ここまで、模型と実車の写真で2枚ずつしかプリントしていないのに画面の色とマッチングできた。当然のことなのだが、色がピタリと合致するのは無条件にうれしい。
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提供:株式会社ナナオ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2011年3月31日