次にGeForce RTX 30シリーズを搭載可能な各社のPCを候補に挙げ、機種の選定を実施した。選定にあたってオティックスでは当初、工場の現場でも安定稼働する耐熱/防塵(じん)性に優れた産業用コンピュータ(FAコンピュータ)を導入したいと考えたという。
複数のPCメーカーに試用機の貸し出しを打診したが、試用したいスペックの機種はなく、導入を決定してから納入されるまでの時間もかなり掛かることが判明した。
「FAコンピュータにこだわると、外観検査システムの運用開始予定時期までに納入が間に合いません。そこでPC本体は、一般的なビジネス用途のPCを採用することにして、発熱や防塵への対策はPCを格納するケース側で対応することにしました」(太田氏)
その上であらためてGeForce RTX 30シリーズを搭載できるビジネスPCを比較した。その結果、オティックスが導入を決定したのが、エプソンダイレクトの製品だった。
「エプソンダイレクトとの最初のコンタクトは、2023年6月に開催された展示会の会場内でした。その場で『GeForce RTX 30シリーズが搭載可能なPCを探している』と相談したところ、担当者から『どの機種でも必要なスペックにカスタマイズして無償で貸し出します』という返答をもらいました。その通り、エプソンからはミ二タワーPC『Endeavor MR8000』、GPU搭載可能なコンパクトデスクトップPC『Endeavor SG150』、そしてハイスペックノートPC『Endeavor NJ7500E』の貸し出しを受けることができたので、実機を使用したPoC(概念実証)を実施することができました」(太田氏)
このエプソンの手厚い導入支援体制を高く評価したオティックスは、エプソン製品の導入を前向きに検討し、最終的にノートPCのEndeavor NJ7500E(※Endeavor NJ7500Eは現在終売しています。後継モデルはEndeavor NJ8000Eです)を選定した。また、7年の長期保守が選べた点も大きいという。
「Endeavor NJ7500Eを選定したのは、第一に検査装置のコントローラーを格納するケースの中に容易に収まる省スペースサイズだったからです。ミニタワーPCやデスクトップPCの場合、本体とは別にディスプレイやキーボードといった入出力機器も設置しなければならず、検査装置のコントローラーを収めるケースが大きくなってしまいます。また、万一の停電時に備え、UPS(無停電電源装置)も別途用意しなければなりません。それに対し、ノートPCであれば、入出力機器は本体一体型になっており、停電時もバッテリーによって動作を継続できます。これらが決め手となり、ノートPCを採用することに決めました」(太田氏)
ただし、ビジネス用途のノートPCを採用するにあたっては懸念もあった。特にAIのような高負荷な処理を行う際の熱問題については慎重に対応したという。
「内部温度を計測して熱量を計算しながら、どこに冷却用の空調機を設置すればよいかを入念に調べ、検査装置のコントローラーを格納するケースを設計/開発しました。PC本体はケース内に設置した引き出しの中に収納し、必要なときに開いて使用しています。今回のノートPCには残念ながら起動・シャットダウンを自動化できる機能が搭載されていなかったため、WOL(Wake On LAN)で起動、装置の電源オフと連動してシャットダウンするための機能をArduinoボードで自作しました。これらの工夫により、運用開始から現在までPCのトラブルは一切発生していません」(太田氏)
こうしてオティックス西浅井工場のカムハウジング生産ラインに導入された外観検査システムは、2024年5月に本番稼働を開始した。現在はそれぞれ異なる箇所を検査する4台の外観検査が稼働しており、各装置を制御するコントローラーのケース内にEndeavor NJ7500Eが合計5台搭載され、コントローラーとの間で画像と検査結果をやりとりしている。
これらシステムで効果が出ていると説明するのは、オティックスの犬塚雅久氏(生技開発部 開発1グループ GL 課長級)だ。
「技能員が目視で行っていたときと比べ、AIによる外観検査システムの運用開始後は、不具合箇所の検知率が確実に向上しています。検査にかかる時間については大きく変わらないものの、人が関わる作業は軽減しているので、当初の導入目的だった省人化は確実に実現できると期待しています」(犬塚氏)
ちなみに、AIの検査結果を表示するインタフェースには、Microsoft Excelを使っており、これもVBAを使って内製化したものだ。また、外観検査システムの肝となるAIモデルについては、装置内のカメラで撮影した全ての画像をストレージに蓄積している。その画像を教師データとして、不具合箇所の判定や誤検知/過検知を判定しながらAIモデルの改善に取り組んでいる。
オティックスの廣田亮氏(生技開発部 開発1グループ 係長級)は、現在もAIのチューニングに取り組んでいると説明する。
「運用しながらAIモデルを変えてしまうと品質にばらつきが発生するため、運用中にAIモデルを更新することはありません。しかしながら、技能員が目視で確認するよりも高精度に検知できるので、合格品とすべきものを不合格と判定する過検知が発生しがちです。これを改善するためにAIモデルのチューニングに日々取り組んでおり、適切なタイミングで新しいAIモデルを適用することを計画しています」(廣田氏)
オティックスでは、今回の外観検査システムをさらに発展させ、将来的には他製品の生産ラインへの導入も視野に入れているという。また、次期システムを導入する際には、入出力機器やUPSの設置に関する課題解決に取り組みながら、ノートPCよりもさらに小型のコンパクトデスクトップPC(Endeavor SGシリーズ)の採用も検討しているとのことだ。
製造業の現場でも、AIを使った業務改善が進んでいる。オティックスの例は、より具体的で効果が出ている好例といえるだろう。
エプソンPCは、こうした現場にも対応できる製品ラインアップ、導入検討の際に実機で試せる制度などを豊富に取りそろえている。製造業におけるAI活用をサポートするために高性能GPUを搭載したパッケージモデルを用意しているのも見逃せない。PCに関して困り事があれば、エプソンダイレクトに相談してみてはいかがだろうか。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia PC USER 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月26日