「逆さ富士」を実現した施工BIM、成功の鍵は設計データの精査BIM/CAD(1/3 ページ)

2017年12月に完成した「富士山世界遺産センター」。「逆さ富士」を表現した木格子が目を引く同センターの施工にはBIMが導入された。複雑な意匠を表現するために、どのようにBIMを活用したのか。施工を担当した佐藤工業とシンテグレートに聞いた。

» 2018年01月18日 06時00分 公開
[陰山遼将BUILT]

 世界文化遺産である富士山の、新しい情報発信拠点として企画された「富士山世界遺産センター」(静岡県富士宮市)が、2017年12月23日にオープンした。設計を坂茂氏が手掛け、「逆さ富士」を表現した特徴的な3次元曲面を持つ木格子が目を引く建築だ。

「富士山世界遺産センター」
側面から見た様子

 その特徴的な意匠で大きく注目された富士山世界遺産センターだが、こうした複雑な3次元形状の実現、さらには入札不調や設計修正なども影響し、厳しい工期の順守と徹底したコスト管理が求められる難易度の高いプロジェクトとなった。そこで施工を担当した佐藤工業は、効率化と品質の向上を目的に、施工BIMの導入を決定。同社の平野敦所長は「2次元の図面では、期間内に各部の収まりなどを検証できず品質低下や原価流出のリスクがあったが、施工BIMの導入により工期を守るとともに、品質の向上を実現でき、十分な成果を得ることができた」と話す。

 富士山世界遺産センターは、展示棟が地上5階建、西・北棟が地上2階建の鉄骨造で、敷地面積は6000m2、延床面積は3410.98m2。発注者は静岡県、設計監理は坂茂建築設計、建築工事を佐藤工業・若杉組JVが手掛けた。

 特に施工難易度を押し上げたのが、木格子の3次元局面を持つ外壁部分と、内部にある曲面を持つ、らせん状のスロープだ。展示棟の1階から5階をつなぐらせん状のスロープを歩くと、プロジェクションマッピングなどで壁面に富士山の実際の風景が投影され、来場者が疑似的に富士登山を体験できるようになっている。

展示棟の構造イメージ 出典:富士山世界遺産センター
展示棟内部のスロープ

 佐藤工業はこうした複雑な形状の施工を成功させるためにBIMの導入を決めた。その中でまず課題となったのが、設計者、鉄骨工事業社、木格子工事業者、佐藤工業など、関係企業が異なるBIM/CADソフトでデータ作成を行っており、こうしたデータをどのように統合し、調整していくかという点だった。加えて、BIMの扱いに長けた人材が不足しているという課題もあった。

 そこで今回のプロジェクトでは、施工段階におけるBIMデータのマネジメントを、BIMコンサルティングを手掛けるシンテグレート(東京都中央区)に依頼した。同社は今回のプロジェクトで、異なる設計データを統合し、精査・検証するための基盤として、ダッソー・システムズの「3D EXPERIENCE」を導入。「今回のプロジェクトは施工BIM。つまり、モデルには高い精度が求められるかつ、大容量のデータを扱う必要がある。3D EXPERIENCEはこうしたプロジェクトに最適と判断し、採用を決めた」(シンテグレート パートナー/日本マーケティングディレクターの渡辺健児氏)

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