島国の日本に適した「洋上風力発電」:キーワード解説
太陽光からバイオマスまでさまざまな再生可能エネルギーがある中で、将来の事業の可能性が最も大きいのは「洋上風力発電」である。国土が狭くて海に囲まれた日本には、洋上風力発電に適した領域が近くに広がっている。一方で陸地までの送電コストなど解決すべき課題も多い。
風が強い場所と言えば、丘の上か海の近くを想像するだろう。実際に風力発電所は丘陵か沿岸地域に建設することが多い。いずれの場合も陸上に風車を建てて発電する方法だが、強い風が吹く海上でも発電することができる。陸と海では発電設備の構造や工法が大きく異なるため、「陸上風力発電」と「洋上風力発電」に分けて考える必要がある。
さらに洋上風力発電は水深によって2つの方式を使い分ける。水深が50メートル以下の浅い洋上では、発電設備を海底に固定する「着床式」が適している。一方、水深が50メートルを超える場合には発電設備を洋上に浮かせる「浮体式」が一般的だ。
着床式と浮体式ともに代表的な設置方法が3タイプある(図1、図2)。着床式の場合は海底の地盤の状況によって、浮体式の場合は波や潮の影響度を考慮して適した方法を選ぶ。現在のところ日本国内で商用運転を開始している洋上風力発電所は着床式だけで、北海道、山形県、茨城県の3か所にある。いずれも陸地から至近距離の浅い場所に設置されている。
陸地から1キロメートル以上の沖合における本格的な洋上風力発電は、経済産業省や環境省が実証実験を進めているところだ。
着床式は千葉県の銚子沖と福岡県の北九州沖の2か所で実験中である。銚子沖は地盤の安定した平坦な場所に向く重力式、北九州沖は傾斜がある地盤でも対応できるジャケット式を採用した。
一方の浮体式は着床式よりも建設が難しく、これから大型の風車を使った本格的な実証実験が始まる。長崎県の五島沖が第1号で、次いで福島沖でも2013年度中に浮体式による発電設備が運転を開始する予定だ。
五島沖は円柱構造のスパー型、福島沖はスパー型に加えて波や潮の影響を受けにくいセミサブ型を併用する。浮体式の場合はケーブルで海底と接続する。
洋上風力発電で最大の課題は海洋生物への影響である。騒音や振動のほか、送電ケーブルが生物に与える影響も懸念点だ。当然ながら漁業にも支障を与える可能性がある。さらに陸地から遠い設備の場合には建設・保守の難しさや送電線の敷設コストが大きな課題になる。
それでも洋上風力発電に期待がかかるのは、全国の沿岸に風の強い領域が広がっているからだ。陸上風力発電では年間の平均風速が5メートル/秒を超えることが最低条件になるが、日本の近海の洋上は平均して6.5メートル/秒を超える強い風が吹き、それだけ発電量も多くなる(図3)。
今後は浮体式を中心に各地で実証実験が始まる一方、着床式は大規模な発電設備が続々と商用運転を開始する見込みだ。安全性と環境への影響をクリアできれば、コストの問題は技術の進展で解決できるだろう。
すでに同じ島国のイギリスでは洋上風力発電が大規模に広がっていて、2012年の時点で3000MW(メガワット)の発電設備が稼働している。最新の大型風車は1基で2MW程度の発電能力があることから、イギリスの近海では1500基ほどの風車が動いていることになる。日本でも2020年代には現在のイギリスと同程度の規模に拡大する期待がある。
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