「夢よ再び」薄膜シリコン太陽電池、3層構造採用で出力7%増:自然エネルギー(2/2 ページ)
製造コストが圧倒的に低いことを武器に他の太陽電池技術を打ち負かすはずだった薄膜シリコン太陽電池。だが、変換効率が当初予測されていたペースでは向上していかなかった。カネカは発電層を従来の2層から新たに3層に増やす技術を開発、出力7%増を武器に、住宅用太陽電池モジュールを改善していく。
2層で届かないなら3層で
薄膜シリコン太陽電池に取り組むカネカの戦略は「多接合太陽電池」に活路を見いだすというものだ。吸収する光の波長が異なる2層(2接合)で性能が届かなければ、3層(3接合)でさらに高めるという発想である。「3層構造を開発した理由は出力(変換効率)を上げることに尽きる」(カネカ)。
3層構造を採ることで、1420×1100mmという寸法のモジュールで出力(初期出力)が10W高まる。「出力の増分では約7%の増加に相当する」(カネカ)。
従来技術とカネカが開発した新技術の違いを図2に示した。図左が従来技術だ。太陽光が入射する順に、ガラス基板、透明なテクスチャ電極、アモルファスシリコン層、透明中間層、薄膜多結晶シリコン層が重なる。最後に不透明な裏面電極が載っている。それぞれの層の境界がでこぼこしているのは入射光の反射を防ぐことと、光が走る距離を長くして、光を吸収する確率を高めるためだ。
図右に示した新技術適用後も基本的な構造は変わらない。違いは青丸で示した「アモルファス系シリコン層」だ。この層は従来のアモルファスシリコン層とはケイ素原子同士の結び付き方が多少異なる。それによって、従来の2層が吸収していた光の中間の波長の光をよく吸収する。
このような層構造を採ることで、太陽電池が出力する電圧が高くなり出力が増え、変換効率が向上する。吸収できる光量を減らさないよう、3層構造でも同社の透明中間層技術が有効に働いているという。
1420mm×1100mmという大型の薄膜シリコン太陽電池モジュールで、3層構造を実現したのはカネカが初だという。「単位電池(セル)当たりの開放電圧が従来技術よりも1.5倍(2.0V)に高まるので、レーザーで形成する単位電池の幅を太くし、モジュールの電圧が上がりすぎないようにしている。モジュール全体の開放電圧は280Vに高まる」(カネカ)。
3層構造を採ると、従来よりも製造コストが例えば1.5倍に高まってしまうのではないか。同社も2007年時点では3層構造を採ると2層構造よりも生産効率が落ちる(高コスト)と主張していた。「結論からいうと製造コストはほとんど上がらないといっていい」(カネカ)。製造コストを抑えられる理由が明らかではないものの、7%高まった出力をほぼ同じ製造コストで実現できるのであれば、競争力が高まる。
同社は、今回の新技術を住宅の屋根に置く据え置き型の製品「グランソーラ」(最大1240mm×1008mm)やスレート瓦用の小型モジュール「ソルティレックス」(400mm×1000mm)、瓦一体型の「ヴィソラ」(349mm×1039mm)などに今後適用していくという。
なお、今回の技術開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「太陽光発電システム次世代高性能技術」プロジェクトの成果である。
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