温泉水でも工場廃熱でも「バイナリー発電」:キーワード解説
通常の火力発電では1000度以上の燃焼熱を使う。地熱発電でも200度以上の高温の蒸気でタービンを回して発電する。もっと低温の熱や蒸気を使った簡便な方法が「バイナリー発電」だ。100度前後の温泉や工場の廃熱から電力を作ることができ、発電設備が小さくて運用の手間も少ない。
我々のまわりには自然の熱がたくさんある。太陽熱や地熱が代表的だが、身近で手に入る熱の多くは100度前後のものが多い。全国各地で湧き出る温泉が最もポピュラーな存在だろう。このような低めの熱を利用して発電する方法のひとつが「バイナリー発電」である。
自然の熱から再生可能エネルギーを生み出せるため、さまざまな分野で導入プロジェクトが始まっている。例えば沖縄県の久米島で実験が進んでいる海洋温度差発電の設備にも、バイナリー発電方式が採用されている。
バイナリー発電は2段階のプロセスで発電するのが特徴で、そこから「バイナリー(2進法)」と名付けられた。1つ目のプロセスで熱を使って蒸気を発生させ、2つ目のプロセスでは蒸気でタービンを回して発電する(図1)。この2段階のプロセスを交互に繰り返す。
ただし100度以下の熱では水蒸気は発生しない。そのために蒸気になる温度(沸点)が低い別の媒体を利用する。バイナリー発電で一般的に使われる媒体は沸点が36度のペンタンである。天然ガスなどに含まれている揮発性の高い液体だ。
バイナリー発電では温泉水などで液体のペンタンを温めて蒸気を発生させる。発電に使った後の蒸気は冷却して元の液体のペンタンに戻すことで、再び同じプロセスを繰り返すことができる循環型の仕組みである。
さらに低い温度で蒸気を発生させる必要がある海洋温度差発電(25〜30度の海水を利用)の場合には、沸点がペンタンよりも低いアンモニアなどを利用する。逆に100度を超える工場からの廃熱などには、沸点が高いオイル類を媒体に使ったバイナリー発電設備が適している。
バイナリー発電のメリットのひとつは、設備が小規模で済むことだ。小型の装置であれば2〜2.5メートル四方の筺体に収まる大きさである(図2)。この装置で温泉水を使って60kW程度の発電が可能になる。温泉旅館が自家発電用に導入した例もある。
一方で地熱を利用した大規模なバイナリー発電システムも存在する。出力が1000kWを超えるようなメガワット級の発電設備を建設することも可能である。
新たな地熱開発プロジェクトとして、北海道の洞爺湖温泉でバイナリー発電に向けた掘削調査が2013年度中に始まる予定だ。これから全国の温泉地域を中心に、バイナリー発電による再生可能エネルギーの導入プロジェクトが広がっていく。
関連記事
- 未利用の温泉水で発電、地元の反対を乗り越えて開始へ
海に流している温泉水を生かす - 工場には無駄な廃熱が多い、低温でも150kWの発電が可能
愛知製鋼の工場で2013年10月から実験開始 - 久米島の「海洋温度差発電」、深層水と表層水の20度の違いを生かす
2013年4月から50kWの規模で実験が始まる - 地熱発電を広げる九州電力、鹿児島でバイナリー発電を開始
指宿市にある山川発電所で実証実験 - 100kW級のバイナリー発電が競う、低価格か高信頼性か
100度前後の低温の熱源から発電できる
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.