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エネルギー不要の技術あり、環境から少しずつ回収して使う和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(2)(1/4 ページ)

歩く、つかむ、触る……。このようなごく自然な行動が、微小なエネルギーを生み出す。これをすくい上げ、小型の装置に送る。これが「エネルギー・ハーベスティング」だ。配線コードが不要になり、クルマやビル、住宅などの使い勝手が一段と良くなる。スマートハウスにも必須だろう。技術開発が現在どこまで進んでいるのか、今後の展開は? 注目の技術に取り組む関係者にインタビューした。

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 エネルギー・ハーベスティングに対する関心は高い。応用面では、日本より欧州が先行している。採用対象はクルマ、ビル、住宅などに広がっている。同技術は配線コードが不要になることと考えられているが、それだけなのか。ゼロエネルギーに役立つのか。技術開発はどこまで進んでおり、今後どのように応用が広まっていくのか、関係者にインタビューした。

 最初にクルマにおけるエネルギー・ハーベスティングの現状について、ボルボグループ アドバンスドテクノロジー&リサーチ 産官学連携 日本代表を務める外村博史氏に聞いた(図1)。

クルマに生きるエネルギー・ハーベスティング

和田憲一郎氏(以下、和田氏) エネルギー・ハーベスティングの現状について教えていただきたい。

外村氏 エネルギー・ハーベスティングはアクション操作によって生じる微小なエネルギーを用いる技術だ。商用電力を用いずに何かの役割を果たす。例えば、古くなった建物では外観上も配線を通すことが困難だ。そのような場合でも、ワイヤレスでスイッチと電灯が連携できる。

 インフラにも役立つ。建築後50年程度が経過した高速道路などでは、強靭化計画が叫ばれている。各所に設置したセンサーを組み合わせることで、現在どのような状態になっているのか分かる。全ての箇所に常に電力を送ることは無理だ。エネルギー・ハーベスティングを使えば、電力を送らなくとも計測などが可能になる。有効な手段だと考えられている。


図1 ボルボの外村博史氏

和田氏 ボルボでの取り組み事例としてどのようなものがあるか。

外村氏 ボルボでは、以前から微小電力を用いた接続方法についていろいろな研究を続けてきた。その1つの例が、バスに設置された「降車ボタンスイッチ」だ。欧州や米国では、バスの「降車ボタンスイッチ」では電線を使っていない。エネルギー・ハーベスティングを使って、車体前方にあるディスプレイに表示を送っている。

 残念ながら同技術は日本では実現できていない。というのは、日本では「降車ボタンスイッチ」に照明を付けることが義務化されているからだ。照明を付けるとエネルギー・ハーベスティングで賄うことができる電力では足りなくなる。なお、欧州や米国では降車ボタンスイッチに照明が付いていない。

和田氏 なぜボルボはこのような技術に取り組んだのか。メリットは。

外村氏 バス内の降車ボタンスイッチを配線しようとすると、側壁にハーネスを張り巡らさなくてはならない。配線部品と組み付けにかなりのコストが掛かる。何とか削減できないかと思い、取り組み始めた(図2)。


図2 ボルボが採用したバス用の降車スイッチ 出典:ボルボ

和田氏 他にも活用方法はあるのか。

外村氏 まだ試験段階ではあるが、トラックの荷台の後ろに据え付けるカメラを検討している。長いトラックではトレーラーを積載し、10m以上にもなる。カメラ用の配線を設置しようとすると、かなりコストが掛かり、設置も難しい。カメラは常時使用するものではないので、必要時のみ作動できるように検討している。

 ドアパネルの内側に置くドアスイッチ、パワーウィンドウスイッチについても検討している。これも常時使用するものではないので、エネルギー・ハーベスティングで動かかそうとしている。もし幾度も昇降が必要ならばキャパシタ(コンデンサ)を内蔵して蓄電し、活用すればよいと考えている。ドアの昇降が10回程度できれば十分だと考えている。

和田氏 今後の普及のための条件は?

外村氏 普及するかどうかは、配線を行った場合と、エネルギー・ハーベスティングを採用した場合のコスト差で判断できる。さきほどのトラックの後方カメラの例でいえば、最近カメラは安くなっている。設置配線と組み付け費用のほうが圧倒的に高額だ。このように、現状の構造と比べ、コスト上のメリットがあるかどうか、実際に配線できない箇所なのかどうか、今後も採用の判断基準になる。

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