燃料電池が自動車からオフィスまで、2020年代には普及価格へ:水素エネルギーの期待と課題(4)(1/3 ページ)
水素で走る燃料電池自動車が増えれば、石油の消費量とCO2の排出量は減る。バスやフォークリフトの実用化も目前だ。一方で電力を供給する燃料電池は家庭用のエネファームが普及するのに続いて、業務用がオフィスや工場へ広がっていく。2020年代には量産効果で水素も燃料電池も安くなる。
連載第3回:「地球上で最も軽い水素、大量に輸送できる液化技術が進化」
これから水素エネルギーがどのくらいの速さで広がっていくのか。ひとえに燃料電池自動車にかかっている。トヨタ自動車が2014年度内に市販車を発売するのを皮切りに、日米欧の主要メーカーが相次いで戦略商品を投入する予定だ(図1)。大量の燃料を消費する自動車がガソリンから水素へ切り替わっていけば、世界のエネルギー市場は一変する。
当面は車両の価格が高いものの、ガソリン車と同等の航続距離や燃料の補給時間を考えると、電気自動車よりも実用的だ。政府も電気自動車を上回る補助金を支給して購買を促進していく。さらに燃料を補給する水素ステーションの設置事業者にも補助金を出して、2015年度中に大都市圏の水素ステーションを100カ所以上に増やす計画を進めている。
最初は乗用車から始まって、バスやフォークリフトなどの商用車まで適用範囲は広い。「環境先進空港」を目指す関西国際空港では、あらゆる輸送手段に燃料電池自動車を採用する方針だ。空港の中を走るマイクロバスや空港間を結ぶリムジンバスをはじめ、貨物を運ぶフォークリフトやトラクターも燃料電池(FC:Fuel Cell)タイプに切り替えていく(図2)。
燃料電池自動車は電気自動車と同様に、有害な排気ガスを出さない。外から空気を取り込んで、発電した後に水を排出するだけである(図3)。燃料の水素はガソリンと同様にタンクに格納する方式で、乗用車であれば3分程度で満タンにできる。
しかも燃料電池で発電しながら走るために、電力を消費するだけの電気自動車よりも航続距離は長い。トヨタが2015年に市販する乗用車の航続距離は500キロメートル以上になる。例えば東京−名古屋間は途中で水素を補給しなくても走り切ることができる。電気自動車の代表格である日産の「リーフ」では、今のところ航続距離は200キロメートル程度にとどまっている。
このほかにCO2の排出量も重要な指標になる。日本自動車研究所の試算によると、燃料電池自動車(FCV)のCO2排出量はガソリン車の約半分で、電気自動車(EV)よりも少し多い(図4)。現在のところ水素はほぼ100%を化石燃料から製造するのに対して、電力は水力発電などCO2を排出しない方法でも作られているからだ。
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