海流・潮流・波力発電に挑む、海洋エネルギーでコストを20円以下に:自然エネルギー
日本が世界に先がけて取り組む海洋エネルギーの分野で4つの研究開発プロジェクトが始まる。2016年以降の実用化を目指す水中浮遊式の海流発電システムをはじめ、2020年代に発電コストを1kWhあたり20円以下に低減させる潮流発電や波力発電の技術開発を国の支援で推進していく。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2011年度から続けている海洋エネルギーの技術開発プロジェクトに4つのテーマを加える。日本の近海に豊富に存在する海洋エネルギーを生かして、2016年以降に発電コストを1kWhあたり40円以下に、さらに2020年代には現在の太陽光発電よりも安い20円以下に低減することを目指す。
4つのテーマのうち2つは実用化を目前にした発電技術で、2015年度から2017年度にかけて実海域で実証研究に取り組む計画だ。まず1つ目は黒潮などを利用した海流発電システムである。2枚の羽根を備えた双発式の発電設備を海底から係留して、水平方向の海流エネルギーを電力に変換する(図1)。
水平浮体方式の海流発電システムはIHIと東芝が2011年度から研究開発を進めてきたもので、2017年度までに実証機を製造して日本近海で試験を開始する予定だ。双発式のタービンを含めて浮体部分をIHIが製造して、発電機や変圧器を東芝が製造する。海流は季節や天候の影響を受けにくいことから、未来の安定した電力源として期待がかかる。
2つ目の海洋エネルギーは長崎県の西海市(さいかいし)で取り組んでいる潮流発電である。地元の企業や自治体が中心になって小型の潮流発電システムを実用化するのが目標だ。すでに試作機を開発済みだが、新たに発電能力が50kWのシステムをNEDOのプロジェクトの中で製作する(図2)。
発電コストを低減するために、潮流による低回転でも効率よく発電できるシステムを開発する。1つ目の海流発電システムとともに、2016年以降の早い時期に1kWhあたりの発電コストを40円以下に抑えることが目標になる。
さらに2020年代には海洋エネルギーの発電コストを20円以下に低減させて、電力の小売価格を下回る水準を目指す。そうした次世代の海洋エネルギーの研究開発プロジェクトも2つのテーマで開始する。1つは海峡などに見られる速い潮流のエネルギーを利用した発電技術で、橋脚のような海中にある構造物に多数の発電設備を取り付ける方式だ(図3)。
中国電力が中心になって瀬戸内海を対象に実証研究を進めていく。2016年度までに発電システムのスケールモデル(縮尺模型)を試作して、性能や信頼性を検証する。合わせて瀬戸内海で潮流発電の適地を選定したうえで、発電量や発電コストを試算して2017年度中に事業性を評価する予定になっている。
もう1つの次世代プロジェクトは波力を利用する発電システムの研究開発だ。波のうねりによる海面の上下運動のエネルギーを生かして発電する方式である(図4)。東京大学が開発した技術をもとに、岩手県の太平洋沿岸に位置する釜石・大槌(おおつち)地域で実用化を目指して開発を推進していく。
海洋エネルギーによる発電方法を低コストで実現できれば、日本の未来に向けてクリーンな電力源を拡大する有力な手段になる。これまでにNEDOは13のテーマで海洋エネルギーの研究開発に着手して、海流・潮流・波力のほかに、洋上風力や海洋温度差を利用した発電技術の実用化に取り組んでいる。
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