「宇宙太陽光発電」の実用化に向けて、電力伝送の地上試験が始まる:自然エネルギー
天候の影響を受けない宇宙空間で太陽光発電を実施する夢のプロジェクトが実用化に向けて動き出した。発電した電力を地上まで送るために、マイクロ波を使った無線による送受電の研究開発が進んでいる。地上の試験では最大1.8kWの電力を55メートルの距離で正確に伝送できるようになった。
「宇宙太陽光発電システム(SSPS:Space Solar Power System)」は米国をはじめ先進国が研究開発に取り組んでいる次世代の再生可能エネルギー技術である。日本では小惑星探査機の「はやぶさ」で有名なJAXA(宇宙航空研究開発機構)が中心になってSSPSの中核技術を開発中だ。2030年代にMW(メガワット)級のSSPSを実用化することが国の目標で、地上の実証試験が本格的に始まっている(図1)。
SSPSは静止軌道上に展開する太陽光発電設備から地上まで、無線で電力を送る必要がある。その伝送方法として最も有力なのが、通信衛星にも使われているマイクロ波だ。発電した電力をマイクロ波に変換して、地上に向けてビームを放射する方法である。
ただし高度3万6000キロメートルの静止軌道から地上の受電装置まで、高い精度で方向を制御してマイクロ波を伝送しなくてはならない。JAXAは送電用に巨大なアンテナを静止軌道に設置して、多数の送電モジュールを配置する方式を考案した(図2)。
地上から宇宙空間の送電モジュールへパイロット信号を送って、地上にある受電装置の方向を高精度に検出する仕組みだ。この伝送方法の実用性を検証するための地上試験モデルをJAXAとJ-spacesystems(宇宙システム開発利用推進機構)が共同で開発した(図3)。屋内と屋外で伝送試験を進めていて、3月1日には屋外で初めてデモンストレーションを実施する。
現在の地上試験モデルでは、送電部と受電部の距離は約55メートルである(図4)。無線で伝送できる電力は最大で1.8kWまで可能になっている。受電した電力はデモンストレーションに参加するアマチュア無線家の無線機に供給して、実際に国内外のアマチュア無線家と交信する予定だ。
JAXAは今後も地上試験を続けながら、長距離でマイクロ波を送信する精度を上げていく。並行して電力とマイクロ波の変換効率を高めるほか、各機器の小型化と軽量化を進める計画だ。
次の研究テーマは移動体を使った地上試験である。さらに2020年代には小型の衛星を打ち上げて、宇宙空間の実証試験を開始する。日本が宇宙太陽光発電の実用化で世界をリードできる可能性は高まっていく。
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