太陽光発電で家畜を育てる、電源がなくても自動で給水:自然エネルギー
広い土地を使って営む畜産業に太陽光発電の導入例が広がってきた。ただし利用方法は通常と比べて大きく違う。発電した電力は放牧に欠かせない防護柵に流すほか、家畜に水を供給するためのポンプにも利用する。商用電源がなくて労力のかかる放牧現場の省力化に再生可能エネルギーを生かす。
農業の技術開発に取り組む「農業・食品産業技術総合研究機構」(略称:農研機構)が、太陽光発電を利用した家畜用の自動給水システムを開発した。環境に優しい再生可能エネルギーを使って放牧牛の管理と生育を省力化することが目的だ。
放牧地は近くに電力系統(送配電ネットワーク)のない場所が多いために、太陽光発電で電力を供給する方法が広く使われるようになってきた。家畜の脱出を防ぐための電気牧柵(ぼくさく)システムが典型例である。家畜が防護柵に触れると電気ショックを与える仕組みになっている。
太陽光パネルからの電力をバッテリーに貯めておいて、高圧の電流を防護柵の電線や柱に送り込む。この電力を自動給水にも利用できるようにした。水源から水をくみ上げるためのポンプには直流で駆動するタイプを採用して、バッテリーの直流電力をそのまま使うことができる(図1)。
自動給水システムは4つの機器で構成する。直流駆動のポンプのほかに、発電・蓄電を制御する充放電コントローラ、飲水槽の水位を制御するフロートスイッチ、ポンプのオン・オフを制御するポンプコントローラである(図2)。導入コストは合計6万円程度で済む(電気牧柵システムを除く)。
農研機構では自動給水システムの設計方法や導入事例などをまとめたマニュアルを作成して、ウェブサイトからダウンロードできるようにした。合わせて講習会を開催して広く普及を図る方針だ。
全国には約40万ヘクタール(1ヘクタール=1万平方メートル)に及ぶ耕作放棄地があり、最近では家畜の放牧に使われ始めている。ただし耕作放棄地では近くに電源や水源がないケースも多い。農研機構が開発した自動給水システムを使うと、水源から100メートル離れた高さ20メートルの場所まで、1時間に約400リットルの水を送ることができる。放牧牛1頭で夏場に1日あたり45リットルの水を飲む。
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