「水素」に強い鋼材開発へ、世界最高圧100MPaの水素透過試験装置を開発:蓄電・発電機器
JFEスチールは世界最高圧クラスとなる100メガパスカル(MPa)の高圧水素ガス透過試験装置を開発した。これにより高圧水素タンクなどに利用できる「水素に強い鋼材」の開発を加速させる。
JFEスチールが開発したのは、従来比で100倍以上となる高圧で水素ガス透過試験が行える装置だ。世界最高圧となる100メガパスカル(MPa)の高圧水素ガス環境において水素が鋼材内へ侵入・拡散する速度の計測や、鋼材内を透過する水素量の検出を可能とするという。
トヨタ自動車による燃料電池車「MIRAI」の販売開始(関連記事)や、北九州などで進められている「水素タウン構想」(関連記事)など、次世代のクリーンエネルギーとして「水素」への期待は高まっている。
一方で水素は元素として最も軽い物体であるため拡散しやすく、効率よくエネルギーを得るためには、高圧タンクでの保存や運搬を行うことが必要だ。燃料電池車関連インフラでも多くの鋼材が利用されているが、70MPaを越える水素ガスにさらされることになる。しかし、水素と鋼材の間には「水素ぜい化」が発生する。これは、鋼材中に吸収された水素により、鋼材の延性や疲労寿命の低下などが発生する現象のこと。そのため、これらの水素環境下における鋼材の安全性を確保するには、70MPaを超える高圧水素ガスを用いて、鋼材内の水素侵入状況や拡散速度を計測する技術の構築が求められていた。
これらを背景とし、JFEスチールが独自開発した100MPa高圧水素ガス透過試験装置は、水素が鋼材内へ侵入・拡散する速度の計測とともに、これまで難しいとされてきた鋼材内を透過した極微量水素の検出を可能とした。従来の試験装置では、国内では1MPa未満、世界でも10MPa以下の低圧水素ガス環境でしか試験できなかったが、新装置の開発により、100MPaの高圧水素ガス環境下での試験を可能とした(図)。
JFEスチールでは既に、高圧水素ガス環境を作る高圧水素ガス暴露試験装置や、鋼材の延性や疲労き裂の状況を計測する高圧水素ガス中材料試験装置を用いて、水素に強い鋼材や表面処理技術の開発を2014年12月から開始しているという。同試験装置の外販については「現在のところは予定はない」(同社広報室)としている。
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