木と水がある場所でバイオマス発電、53億円かけて2018年に運転開始:自然エネルギー
ヒノキの生産量が全国有数の愛媛県で初の木質バイオマス発電所を建設する計画が動き出した。林業を躍進させるため、53億円にのぼる事業費の一部を県が無利子で融資するほか、森林組合やチップ加工業者が燃料の供給体制を整備する。年間に2万4000世帯分の電力を供給できる見込みだ。
木質バイオマス発電所を建設する場所は、松山港に近い石油コンビナートの一角にある(図1)。三菱化学が保有する工場の跡地に、発電能力が12.5MW(メガワット)の蒸気タービン発電機を導入する計画だ。燃料になる木質バイオマスを調達しやすいほか、発電で必要になる大量の水と送電線が近くにあることから、コンビナート内の用地を選定した。
豊田通商が中心になって設立した「えひめ森林発電」が事業者になって、2018年1月に運転を開始する予定である。年間の発電量は8700万kWh(キロワット時)を想定している。一般家庭の使用量(年間3600kWh)で2万4000世帯分に相当する。発電した電力は固定価格買取制度を通じて四国電力に売電することが決まっていて、年間の売電収入は約24億円になる見通しだ。
燃料には地域の森林で発生する間伐材などの未利用木材を年間に6万トン消費するほか、東南アジアから輸入するPKS(パームヤシ殻)も同量の6万トンを使用する。バイオマス発電の買取価格は未利用木材によるものが1kWhあたり32円(税抜き)で、PKSによる電力は24円(同)に設定されている。
愛媛県は面積の約7割を森林が占めていて、木材の生産量は全国で第10位である。他県との競争が激しい林業を成長産業として育成するために、2014年度から5年計画で「林業躍進プロジェクト」を開始した。県産の木材の利用拡大と間伐による森林整備を目的に、木質バイオマス発電を促進する方針だ。
燃料を安定的に供給できるように、県内の森林組合が未利用木材を収集して、チップ加工業者から発電所に供給する体制を構築する(図2)。ただし年間に必要な燃料のうち、地域の未利用木材を確保できる量が当初は半分程度しか見込めないため、残りの半分をPKSで補う。将来は全量を地域の未利用木材で供給できることを目指す。
発電所は2015年9月に着工して、2017年12月に完成する予定だ。約1カ月の試運転を経て2018年1月に営業運転へ移行する。発電設備を含めて事業費は53億円を予定している。このうち14億円を愛媛県が無利子で融資する。林業の活性化のほかにも、発電所の運転に伴って10人以上の新規雇用を見込んでいる。
関連記事
- バイオマス発電で買取価格42円以上に、下水処理場から新電力へ供給
愛媛県・松山市の下水処理場で消化ガスを燃料に利用したバイオマス発電が始まった。年間の発電量は一般家庭の1100世帯分で、そのうち4分の3を売電する計画だ。一般競争入札で売電先を募集した結果、新電力のエネットが固定価格買取制度の買取価格を3円以上も上回る単価で落札した。 - ミカンやタオルからバイオマスを、風力と太陽光も拡大中
四国の中で再生可能エネルギーの導入量が最も多いのは愛媛県である。中でもユニークなのはバイオマスの分野で、特産品のミカンやタオルから燃料・熱・電力を作り出す。長い海岸線を生かして風力や太陽光発電の取り組みも広がるなか、原子力発電の位置づけが微妙な状況だ。 - バイオマス発電: 使わずに捨てる資源から、800万世帯分の電力
生物が日々作り出す資源の大半は、使われないまま廃棄されている。森林に残る木材から食品廃棄物まで、燃料に転換すれば800万世帯分の電力に生まれ変わる。生物由来の資源を活用するバイオマス発電は大都市と地方の両方で拡大を続け、火力発電を補完する安定した電力源の役割を担っていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.