人口1万人の町にバイオマスと太陽光、発電事業者から基金を集める:自然エネルギー
縮小を続ける農林業を活性化させるために、岩手県の軽米町が再生可能エネルギーの拡大に乗り出した。発電事業は民間企業に任せて、売電収入の一部を町に還元する仕組みを導入する。町内の6つの区域を開発対象に選び、バイオマスと太陽光発電を促進して収入の増加を図る。
軽米町(かるまいまち)は岩手県の北部にある人口1万人の町で、豊かな自然を生かして農林業が盛んだ(図1)。町の面積の8割を森林が占めるほか、農業では養鶏が主力の産業に発展してきた。ところが人口の減少に伴って、森林には間伐による林地残材が発生する一方、養鶏では排せつ物の処理が大きな課題になっている。
こうした地域の資源を再生可能エネルギーとして循環させる「農山村活性化計画」が2015年度から6年計画で始まる。町内の6つの地域を整備促進区域に指定するのと合わせて、発電事業が町の景観や環境を損ねないように開発制限を設けた。農地や保安林、自然公園や土砂災害危険区域を開発対象から除外するほか、開発面積が町全体の森林の面積の10%(1800万平方メートル)を超えないように上限を設定した。
6つの整備促進区域では、すでに民間企業による開発プロジェクトが決まっている(図2)。そのうちの1つは岩手県内で鶏肉の生産・販売事業を大規模に展開している十文字チキンカンパニーのバイオマス発電事業である。地域で大量に発生する鶏のふんを燃料に加工して、発電能力が6.25MW(メガワット)の設備を2015年内に運転開始する予定だ。
残る5つの区域にはメガソーラーを導入する。再生可能エネルギーを全国各地で開発中のレノバが、2つの区域に合計116MWの太陽光発電設備を建設する計画である。香港を拠点に国際事業を展開するスカイソーラージャパンも、3つの区域を合わせて85MWのメガソーラーを建設する。太陽光だけで200MWを超える発電設備が誕生することになる。
軽米町は発電事業者と協定を結んで、売電収入の一部を徴収する方針だ。開発区域の経済価値をもとに、林地が吸収するCO2の削減分に相当する対価を町に納めてもらう(図3)。徴収した額は町が基金に組み入れて、町内を彩るチューリップや芝桜を増やす取り組みのほか、遊休農地の活用策などに生かす。災害対策として公共施設や病院などに蓄電池を導入して、町内で発電した電力を地産地消できる体制も整備する。
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