阿蘇山の西で地熱発電プロジェクト、九州電力などが開始:自然エネルギー
日本で有数の地熱資源が存在する熊本県の南阿蘇村で地熱発電に向けた資源開発プロジェクトが動き出した。九州電力を含む2つの事業者グループが村長の同意を受けて6月から地表調査を開始する。2015年度末までに調査結果をまとめて、2016年度には掘削調査に着手する見通しだ。
南阿蘇村は阿蘇山の西から南に広がる自然環境に恵まれた人口1万2000人の村で、村全体が「阿蘇くじゅう国立公園」に含まれている(図1)。活火山の阿蘇山を中心に地熱資源が豊富に存在して、周辺には数多くの温泉地がある。2014年12月に「南阿蘇村地熱資源の活用に関する条例」を制定して自然保護と資源開発の両立を図る方針だ。
条例では地熱資源を開発する事業者が村に事業計画を提出して村長の同意を得ることを義務づけている。2015年に入って5つの事業者グループが事業計画を提出した結果、2つのグループに対して村長の同意書が5月21日に交付された。1つは九州電力と三菱商事のグループ、もう1つは再生可能エネルギー事業を全国で展開するレノバなど3社によるグループが同意書を受けて調査に着手する。
地熱資源の調査を実施する場所は、湯量が豊富なことで知られる阿蘇温泉郷の「湯の谷温泉」の周辺を予定している。レノバのグループではプロジェクトに参画する投資会社のフォーカスキャピタルマネジメントが所有する50万平方メートルの土地を中心に調査を進める計画だ。所有地の中には1980年に稼働した熱水プラントが運転を停止した状態で残っていて、現在でも高温の蒸気を大量に噴出している(図2)。
この一帯が地熱発電の有望な地域であることは確実で、2つのグループは2015年度内に地表調査と温泉現状調査を実施して発電所の建設準備を進めていく。地表調査では重力計や電磁探査器を使って地下の構造を調べる。地下の断層や地熱の貯留層を示す構造モデルを作成して、地熱資源の状況を把握しながら次の掘削調査に生かす(図3)。
並行して温泉の現状調査を実施して温度や流量、成分などを分析する。月に1回程度の頻度で定期的に温泉の測定・分析を続けて季節変動などを調べる(図4)。地表調査と温泉モニタリングの結果をもとに、地熱発電の有効性が確認できれば掘削調査に進む流れだ。
地表調査から発電所の運転開始までには、出力が1万kW(キロワット)以上の大規模な場合で10〜12年程度かかり、1000kW以下の中小規模であれば3〜4年程度で済む。ただし南阿蘇村の条例では、地下の掘削や発電所の建設など各段階で村長の同意を得る必要がある。発電所を建設できると、村には固定資産税が入るなど地域振興の効果も見込める。
関連記事
- 阿蘇のふもとで地熱と小水力を増やす、メガソーラーに続く電力源に
熊本県では沿岸部を中心にメガソーラーが続々と運転を開始している。その一方で阿蘇山の周辺地域では地熱や水力を生かした発電設備の建設計画が活発になってきた。天候の影響を受ける太陽光や風力発電の導入量が制限を受ける中で、安定した電力源として地熱と小水力発電が広がり始める。 - 全国に広がる地熱発電の開発計画、北海道から九州まで39カ所
地熱発電は国内の再生可能エネルギーの中で開発余地が最も大きく残っている。これまでは発電所の建設に対する規制が厳しかったが、徐々に緩和されて開発計画が増えてきた。現時点で調査・開発段階にある地熱発電のプロジェクトは全国で39カ所に広がっている。 - 地熱発電:世界3位の資源量は4000万世帯分、6割が開発可能
世界の中で地熱の資源量が群を抜いて多いのは米国、インドネシア、日本の3カ国だ。このうち日本の地熱発電の導入量は他国の半分以下にとどまっていて、開発の余地は極めて大きい。発電コストはガス火力並みの10円前後と安く、地熱資源が集中する自然公園の規制緩和も進んできた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.