雪国に広がる小水力発電のパワー、農業用水路や水道設備を生かす:エネルギー列島2015年版(6)山形(2/2 ページ)
山形県には太陽光からバイオマスまで再生可能エネルギーの資源が豊富にある。最近では小水力発電の開発プロジェクトが急速に広がってきた。山間部から平野へ流れる農業用水路を活用できるほか、浄水場などの水道設備にも発電機を導入して、多彩な方式で電力の地産地消を推進中だ。
安定して流れる水道のエネルギー
農業用水路に加えて、自治体が運営する水道設備でも小水力発電の導入が活発に進んでいる。山形県の日本海側に広がる「庄内広域水道」には2カ所の浄水場と3カ所の量水所がある。浄水場から地域ごとに供給する水の流量を途中で調整する施設が量水所だ。3カ所のうち流量の多い「鶴岡量水所」に小水力発電設備を導入して2014年11月に運転を開始した。
浄水場から量水所までのあいだには69メートルの落差があり、最大で毎秒0.39立方メートルの水が流れている(図6)。この水力を使って199kWの電力を供給できて、年間の発電量は170万kWhを見込んでいる。年間の売電収入は5800万円になり、想定通りに発電できれば建設費の3億円を10年以内に回収できる。
一方で内陸部にある山形市では、市内に2カ所ある浄水場の1つに小水力発電設備を導入した。水源になる標高573メートルの「蔵王ダム」から市街地にある標高221メートルの「松原浄水場」まで、途中4カ所で水圧を落としながら導水管で水を流している。最後の4番目の減圧地点から浄水場までの77メートルの落差を利用して発電する方式である。
発電能力は140kWで2014年9月に運転を開始した(図7)。年間の発電量は100万kWhになって、浄水場で消費する電力をすべてまかなうことができる。年間に約1000万円の経費削減につながり、さらに余剰電力の売電収入が70万円程度になる。浄水場で自家発電できれば、停電が発生しても水道の供給を続けることが可能だ。
農業用水路と水道設備を合わせて、山形県内では震災後に5カ所で小水力発電所が運転を開始している。浄水場と量水所が2カ所ずつ、農業用水路では野川小水力発電所が最初の事例だ。5カ所を合計すると年間の発電量は440万kWhにのぼり、一般家庭で1200世帯分の電力を供給できる体制になった。
これから運転を開始する発電設備を加えて、固定価格買取制度の認定を受けた小水力発電の規模は全国で15位に拡大している(図8)。2013年末の時点では1カ所も認定を受けていなかったことから、1年間で大幅に増えた。太陽光と風力も着実に伸びているが、各地域に電力を安定供給できる点で小水力発電の果たす役割は大きい。
*電子ブックレット「エネルギー列島2015年版 −北海道・東北 Part2−」をダウンロード
2016年版(6)山形:「バイオマス発電が「モリノミクス」を加速、港の洋上風力と波力にも期待」
2014年版(6)山形:「豪雪地帯で増えるメガソーラー、太陽電池の種類と角度がカギに」
2013年版(6)山形:「2030年に大型風力発電を230基、日本海沿岸から内陸の高原まで」
関連記事
- 水道用水の「量水所」でも小水力発電、3億円の事業費で470世帯分の電力
山形県内で水道施設を活用した小水力発電の取り組みが拡大している。高い場所にある浄水場から地域全体に水を供給するための送水・配水設備の1つ「量水所」で小水力発電を開始する。浄水場から送水管を流れてくる69メートルの落差を生かして、470世帯分の電力を供給することが可能だ。 - 運転開始から29年の小水力発電所、ESCO方式で初期投資なしに設備更新
山形県を流れる最上川を利用した農業用水路で、1985年から小水力発電所が運転を続けてきた。86メートルの落差を生かして1374kWの発電能力がある。稼働から29年を経過した設備を更新するためにESCO方式の事業スキームを導入する。新しい発電設備は2017年4月に運転を開始する予定だ。 - 落差38メートルで800世帯分の電力、神霊の宿る山の水をエネルギーに
山形県と秋田県にまたがる山のふもとで、ダムからの水流を利用した小水力発電所の建設が始まった。発電能力は420kWになり、一般家庭で800世帯分の電力を供給することができる。小水力発電を推進する山形県の企業局が12億円の事業費をかけて、2015年度内に運転を開始する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.