環境影響評価を実施した初の地熱発電所、2019年の運転開始に向けて着工:自然エネルギー
1997年に施行した環境影響評価法によって、発電能力が10MW以上の地熱発電所には3段階の環境影響評価の手続きが義務づけられた。その手続きを完了した初めての地熱発電所の建設工事が秋田県内で始まった。発電能力は42MWに達して、国内で5番目に大きい地熱発電所になる。
新たに建設する「山葵沢(わさびさわ)地熱発電所」の場所は、秋田県の湯沢市に広がる国有林の中にある(図1)。周辺には数多くの温泉地が点在する地熱資源の宝庫だ。約3年間にわたる環境影響評価を経て、ようやく5月25日に着工した。運転開始は4年後の2019年5月を予定している。
発電能力は42MW(メガワット)で、1997年に環境影響評価法を施行して以降では最大の地熱発電所になる。国内では九州電力が1977年と1990年に運転を開始した「八丁原(はっちょうばる)発電所」(110MW)や、東北電力の3カ所の地熱発電所(葛根田、柳津西山、澄川)に次いで5番目に大きい。
地熱発電の標準的な設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を70%として計算すると、年間の発電量は2億6000万kWh(キロワット時)にのぼる見込みだ。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して7万世帯分に相当する。
山葵沢地熱発電所は発電所のほかに、地下から蒸気と熱水をくみ上げるための生産井(せいさんせい)が9本、発電後に熱水を地下に戻すための還元井(かんげんせい)が7本で構成する(図2)。生産井と還元井の深さは地下1.5〜2キロメートルに達する。
発電方式は蒸気と熱水の両方を利用する「ダブルフラッシュ式」を採用する。生産井からくみ上げた蒸気と熱水は気水分離器で分けた後に、蒸気を一次輸送管でタービンに送って発電機を回転させる一方、熱水からも蒸気を発生して二次輸送管でタービンに供給して発電量を増やす(図3)。蒸気だけで発電する「シングルフラッシュ方式」と比べて発電能力が15〜20%高くなる。
発電に利用した蒸気は復水器で水に戻して冷却塔に送り、還元井から地下に戻す仕組みだ。蒸気には硫化水素が含まれているため、ガス抽出機で取り出して冷却塔から排出する(図4)。環境影響評価の結果をもとに、冷却塔から大量の空気と混合して上方に拡散させて、周辺地域に着地する硫化水素の濃度を低減させることにした。
山葵沢地熱発電所は電源開発、三菱マテリアル、三菱ガス化学の3社が2010年に設立した湯沢地熱が建設・運営する。1997年から発電能力が10MW以上の地熱発電所の建設には環境影響評価の手続きが必要になり、それ以降は国内で10MW以上の地熱発電所を建設した例はない。山葵沢地熱発電所は環境影響評価を実施して建設する初めての地熱発電所になる(図5)。ただし固定価格買取制度の認定は受けていない。
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