メタノールから“穏やかな”環境で水素を取り出す新規触媒を開発:蓄電・発電機器
京都大学 人間・環境学研究科教授の藤田健一氏、名誉教授の山口良平らの研究グループは、従来よりも穏やかな条件下でメタノール水溶液から効率的に水素を作り出せる新規水溶性イリジウム錯体触媒を開発した。
二酸化炭素の排出がなく重量当たりのエネルギー密度が高い点から、水素は炭素資源に代わる理想的なエネルギー源として注目されている。しかし、現在は製造技術が限定されており、既存の技術では水素を製造する際に多くのエネルギー消費が必要だという課題がある。そのため、効率的かつ持続可能な水素製造法の研究開発がさまざまな研究機関で進められている。
現在、水素は主に天然ガスや石油(ナフサ)などの炭化水素や、メタノールなどの有機資源の水蒸気改質法により、不均一系触媒を利用した反応で製造されている。炭化水素を原料とする場合は通常700度以上、メタノールを用いる場合でも200度以上の高温反応条件を必要とし、膨大なエネルギーが必要となっている。
メタノールを利用した場合では、100度以下の温和な条件下で水素を生成する反応なども発表されているが、この場合高濃度の塩基性条件が必要である他、テトラヒドロフラン、トルエン、トリグリムなどの有機溶媒が必要となり、安全性などの点で問題が大きかった。
イリジウム錯体触媒を利用
今回発表された技術はこれらの課題を解消するものだ。京都大学 人間・環境学研究科教授の藤田健一氏、名誉教授の山口良平らの研究グループは、以前から、有機分子の脱水素化に高活性を示すイリジウム錯体触媒の研究開発を進めてきた。今回新たに開発したのはアニオン性の水溶性イリジウム錯体触媒だ。同触媒を用いて、メタノール水溶液からの効果的な水素生成を、従来のように厳しい条件下でなく、比較的“穏やかな”環境下で達成することに成功した(図1、図2)。
新たに開発した触媒では、温度は88度、塩基濃度は 0.046モル/リットル(水酸化ナトリウム)で反応が進むことが確認されており、従来の反応環境に比べて実現しやすい環境だといえる。
今後は、低炭素社会への移行を進める中で、例えば、小規模なオンサイト型水素製造への応用などに向け、研究開発を進めるという。
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