トマトを育てるバイオマス発電、虫害対策で生まれる未利用材を使用:自然エネルギー
長野県中部に位置する安曇野(あづみの)市で、未利用材を活用するコージェネレーション方式のバイオマス発電設備の建設が始まる。隣接する野菜農園に温水とCO2を供給して野菜の栽培を促進し、売電収益は発電設備の運転費用に利用する。
ガス関連事業を手掛けるエア・ウォーターは長野県安曇野市に「安曇野 木質バイオマス エネルギーセンター(仮称)」を建設する。コージェネレーション方式の発電設備で熱源に地域の未利用材を活用し、2109平方メートルの敷地内には木材チップ工場も併設する。発電出力は1900kW(キロワット)、熱出力は3800kWだ。2015年8月から建設に着手し、完成は2016年3月を予定している。
エア・ウォーターは農業関連事業も展開しており、安曇野市ではトマトを栽培する「安曇野菜園」を運営している。今回のバイオマス発電設備の建設は、この安曇野菜園への野菜栽培用エネルギーの供給が目的だ。発電所から安曇野菜園に温水を供給して栽培におけるエネルギーコストの削減を図る。さらに未利用材の燃焼過程で排出されるCO2をトマトの光合成に利用する。発電した電力は全て売電して、収益を発電設備の運営費に充てる計画だ。
長野県は森林の面積が全国で3番目に広く、県内の約8割を自然林と人工林が占めている森林県だ。アカマツやヒノキなどを筆頭に、家具や伝統工芸品などさまざまな用途に利用できる豊富な森林資源を保有している。この長野県を大きく悩ませているのが松くい虫による松枯れ被害だ。2014年度は同年12月時点で約6万8000立法メートルの森林が松くい虫による被害を受けており、以前から深刻な問題になっている。
松くい虫による被害は、マツノザイセンチュウと呼ばれる線虫が松の樹体内に侵入することで発生する。この線虫を体内に持つカミキリムシが松から松に移することで被害が拡大していく。そのため被害を受けた枯損木は、他の松に影響がおよぶ前に速やかに伐採する必要がある。伐採後の木材も粉砕や焼却、薬剤による処理を行わなくてはならず、商品として利用することは難しい(図2)。
今回エア・ウォーターがバイオマス発電所を建設する安曇野市も深刻な松くい虫の被害を受けている地域だ。松くい虫の被害拡大を未然に防ぐための大規模な松の伐採も進んでおり、これに伴い大量に生まれる未利用材の活用が課題となっている。こうした地域の未利用材を木質バイオマス発電に利用できれば森林資源の有効活用につながる。
エア・ウォーターは未利用材の活用について、安曇野市や地域の森林組合、金融機関と共同で「安曇野木質バイオマス農業利用・林業推進協議会」を設立して協議を重ねてきた。今回建設するバイオマス発電設備では年間2〜3万トンの未利用材を利用していく計画だ。
関連記事
- 地方再生に木質バイオマス発電、長野県・塩尻市が国の支援を受けて
内閣府が支援する地域再生計画の1つに「信州F・POWERプロジェクト」が認定された。長野県の塩尻市が中心になって推進する森林資源の循環活用計画で、中核の事業として大規模なバイオマス発電所を建設する。売電収入の一部を林業従事者に還元して地域の活性化につなげる。 - 全国に広がる木質バイオマス発電、35億円のプロジェクトが宮崎県で進む
地域の林業振興を兼ねた木質バイオマス発電所の建設プロジェクトが全国各地で相次いでいる。面積の76%を森林が占める宮崎県では、間伐材など未利用木材を活用する発電所の建設計画が中部の川南町で始まった。発電能力は5.75MWで、2015年内に運転を開始する見通しだ。 - 地域密着の木質バイオマス発電所、岩手と徳島で2016年に相次いで運転開始へ
森林の保護と林業の活性化を両立させる木質バイオマス発電所の建設計画が相次いで始まる。日本紙パルプ商事が岩手県の野田村で、クラボウが徳島県の阿南市で、それぞれ地元の林業から木質バイオマスの供給を受けて発電事業に取り組む。いずれも2016年4月に運転を開始する予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.