低温の地熱でも発電できる、大分県の火山地帯から8300世帯分の電力:自然エネルギー
日本で地熱発電が最も活発な大分県の九重町に、九州電力グループが新しい地熱発電所を運転開始した。100度前後の低温の地熱でも発電できるバイナリー方式を採用して、一般家庭で8300世帯分の電力を供給することができる。地元の九重町が蒸気と熱を提供して使用料を得るスキームだ。
大分県の西部に広がる九重町(ここのえまち)は「阿蘇くじゅう国立公園」にも含まれる火山地帯にある。日本の地熱発電で最大の規模を誇る「八丁原(はっちょうばる)発電所」をはじめ、九州電力の地熱発電所が町内の3カ所で稼働している(図1)。
地熱資源が豊富な九重町で6月29日に「菅原バイナリー発電所」が営業運転を開始した(図2)。発電能力は5MW(メガワット)で、年間の発電量は3000万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して8300世帯分にのぼり、九重町の総世帯数(3900世帯)の2倍以上をカバーすることができる。
菅原バイナリー発電所の位置は八丁原発電所から北西10キロメートルほどのところにある。近くには九重町が所有する地熱井が3本(生産井2本、還元井1本)あって、生産井で地下からくみ上げる蒸気と熱水を発電所に供給する体制になっている。
ただし八丁原発電所などで利用する地熱に比べると温度が低くて100度程度にとどまる。地熱の蒸気をそのまま使って発電することは難しいため、低温でも発電できる「バイナリー方式」を採用した(図3)。
菅原バイナリー発電所では沸点が36度と低いペンタンを媒体に利用して、地熱でペンタンを蒸発させてタービンを回して発電する。気体になったペンタンを空気で冷やして液体に戻してから、再び地熱で蒸発させる仕組みだ。従来の地熱発電に使われる「フラッシュ方式」と比べると発電能力は小さくて、菅原バイナリー発電所の5MWは国内の地熱バイナリー発電設備では最大だ。
発電事業を運営するのは九州電力グループで再生可能エネルギーを担当する「九電みらいエナジー」である。九重町から蒸気と熱水の供給を受けて発電した電力を、固定価格買取制度を通じて親会社の九州電力に売電する(図4)。発電能力が15MW未満の地熱発電の買取価格は1kWhあたり40円(税抜き)で、年間の売電収入は12億円になる。買取期間の15年間の累計では180億円にのぼる見込みだ。
九電みらいエナジーは総事業費を公表していないが、建設資金の一部にあたる40億円をみずほ銀行と日本生命保険から借り入れた。そのうち80%の32億円分については、国が地熱資源の開発を促進するために実施する「地熱資源開発債務保証」を活用した。国の出資を受けたJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が年率0.4%の保証料で債務を保証するスキームである(図5)。
日本は米国とインドネシアに次いで世界で3番目に地熱資源の潜在量が多い。地熱発電は再生可能エネルギーの中では出力が安定していて、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は70%に達する。九州は大分県を中心に地熱資源の豊富な場所が広がっていて、フラッシュ方式とバイナリー方式の両方の発電方法による開発プロジェクトが増えている。
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