琵琶湖に注ぐ農業用水路で小水力発電、1メートルの落差でも40世帯分の電力に:自然エネルギー
大阪ガスグループが滋賀県の農業用水路で小水力発電を開始した。琵琶湖の近くを流れる用水路に発電機を設置して、年間に40世帯分の電力を供給する。民間企業が固定価格買取制度を利用して小水力発電を実施する初めてのケースで、売電先は大阪ガスが出資する新電力のエネットである。
琵琶湖の北側に広がる湖北地域は、周辺の山から湖へ流れる豊富な水を利用して農業が盛んなところだ。湖に近い平野部には農業用水路がはりめぐらされている。その中の中央幹線に設けられた「落差工(らくさこう)」を利用して、7月1日から小水力発電が始まった(図1)。
落差工は農業用水路の底を階段状に造成した部分で、水の流れを安定させる役割がある。通常は1メートル程度の落差しかない場所だが、小規模な発電機を設置することは可能だ。大阪ガスグループのエナジーバンクジャパン(略称:EBJ)が中央幹線の「5号落差工」と「10号落差工」の2カ所に、同じタイプの小水力発電機を設置して発電を開始した。
この小水力発電機は「クロスフロー水車」と呼ぶ円筒形の水車を2つ組み合わせて作られている。2つの水車のあいだに水流が集まり、回転力を高める構造になっている点が特徴だ(図2)。落差が3メートル以下の水流でも効率よく発電することができるため、傾斜が緩やかな農業用水路に導入する場合に適している。
2カ所の落差工に設置した発電機の出力は水量と落差の違いにより、15kW(キロワット)と10kWに設定した。年間の発電量は合計で14万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して40世帯分に相当する。固定価格買取制度では出力が200kW未満の小水力発電の買取価格は1kWhあたり34円(税抜き)で、年間の売電収入は約480万円になる見通しだ。
EBJは発電した電力を固定価格買取制度で売電しながら、農業用水路を管理する湖北土地改良区に対して用水路の使用料を支払う(図3)。民間企業が固定価格買取制度を利用して出力100kW以下の小水力発電を実施する初めてのケースになる。
小水力発電は発電量が小さいために採算をとるのが難しく、従来は国や自治体が自営のダムや農業用水路で実施してきた。EBJはリース会社の日立キャピタルから発電設備を賃借する形をとることで、初期投資を抑えて長期の収益を確保できるようにした。
発電した電力の売電先は新電力で最大手のエネットである。エネットは大阪ガスが東京ガス、NTTファシリティーズと共同で、電力の小売自由化が始まった2000年に設立した。火力を中心に最近は再生可能エネルギーの調達量も増やしている。小水力は再生可能エネルギーの中でも発電量が安定していることから、電力の供給源として使いやすい利点がある。
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