川の環境を守る水流で360世帯分の電力、ダムに展開する小水力発電:自然エネルギー
岐阜県では3000メートルを超える山々から川が広がり、治水と発電を目的にダムが各地域に設けられている。ダムの下流の環境を守るために放流する水のエネルギーを利用した小水力発電の第1弾が始まった。これまで発電に利用していなかった水流で360世帯分の電力を供給することができる。
新たに小水力発電を開始したダムは、岐阜県の中部を流れる阿多岐川(あたぎがわ)に設けた「阿多岐ダム」である(図1)。岐阜県が治水を目的に1988年から運用を続けているダムで、堤の高さは71メートル、横幅は200メートルに及ぶ。
水を貯めて川の流量を調整しながら洪水を防ぐ以外にも、下流に生息する動植物などを保護するために一定量の水を常に放流している。その「維持流量」を利用した小水力発電所が7月7日に運転を開始した(図2)。
毎秒0.7立方メートルの水流で190kW(キロワット)の電力を作ることができる。水量は少ないものの、落差が38メートルもあるために発電能力は大きい。年間の発電量は130万kWh(キロワット時)になる見込みで、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して360世帯分に相当する。
発電事業者は中部電力である。阿多岐ダムを管理する岐阜県の提案を受けて、小水力発電所を建設・運営することになった。ダムの堤の脇を通る放流管から水圧鉄管を敷設して、発電所に水流を取り込んでから川へ放流する(図3)。
中部電力は固定価格買取制度を適用して発電コストを吸収する一方で、岐阜県に対して流水の占用料を支払うスキームだ。従来は流すだけだった水流が電力になり、県の収入源にもなる。
この小水力発電は2013年12月に施行した河川法の改正を機に計画が進んだ。河川の環境保全のためにダムから放流している維持流量や農業用水を利用した発電事業が法改正によって許可制から登録制へ変わった。許可制では5カ月ほどかかっていた手続きが登録制に移行して1カ月程度に短縮されたことで、小水力発電を実施しやすくなった。阿多岐水力発電所は岐阜県で初めて登録制を適用した発電事業である。
岐阜県は県内の5カ所でダムを運営していて、さらに2025年度には新しいダムの運用も開始する(図4)。合計6カ所になる県営ダムのうち、維持流量の多い阿多岐ダムと「丹生川(にゅうかわ)ダム」の2カ所で中部電力が小水力発電を実施することが決まっている。丹生川ダムの小水力発電所は2016年度に運転を開始する予定だ。中部電力は新設の「内ヶ谷(うちがたに)ダム」でも小水力発電を検討する。
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