乳牛の排せつ物が2600世帯分の電力に、北海道でバイオガス発電が始まる:自然エネルギー
合計11万頭にのぼる牛を飼育している北海道の別海町で、牛の排せつ物を利用したバイオガス発電施設が運転を開始した。発電施設から半径10キロメートル以内の乳牛の排せつ物を収集して、発酵後のメタンガスで発電する方法だ。町の全世帯の4割以上をカバーできる電力を供給する。
別海町(べつかいちょう)は北海道の東部に広がる酪農の盛んな町だ(図1)。人口が1万5000人に対して牛が11万頭もいる。そのうち10万頭を乳牛が占める。毎日大量に出る牛の排せつ物の処理は酪農家にとって大きな負担になっていたが、新たな収入源として発電用の燃料に生まれ変わる。
三井造船を中心に2013年に設立した「別海バイオガス発電」が町内に発電施設を建設して、7月1日に運転を開始した。施設内には発電能力が600kW(キロワット)のガスタービン発電機3台を備えて、合計で1.8MW(メガワット)の電力を供給することができる。年間の発電量は960万kWh(キロワット時)を見込んでいる。
一般家庭の使用量(年間3600世帯)に換算して2670世帯分になり、別海町の6400世帯の4割以上をカバーすることができる。発電した電力は固定価格買取制度を通じて北海道電力に売電する。バイオガス発電の買取価格(1kWhあたり39円、税抜き)を適用すると、年間の売電収入は約3億7000万円になる。
燃料のバイオガスは発電施設から半径10キロメートル以内で飼育する乳牛の排せつ物から作る。1日あたり4500頭分の乳牛の排せつ物を固形状と液体状(スラリー)に分けて処理してから、発酵させてメタンガスを生成する(図2)。1日あたりの排せつ物の使用量は280トンにのぼる。
メタンガスを生成する過程で副産物として堆肥や消化液が発生する。それぞれ農作物の肥料や牛の敷料に使えるため、酪農家に販売してバイオマスのリサイクルを実施する計画だ。事業を運営する別海バイオガス発電には三井造船と別海町のほかに、地元の2つの農業協同組合が出資している。別海町は2013年度に国から「バイオマス産業都市」に選ばれて、家畜の排せつ物を利用したバイオガス発電の導入に取り組んできた。
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