青々と育つ稲の上に太陽光パネル、「米と発電の二毛作」に棚田で挑む:スマートアグリ(3/3 ページ)
佐賀県の山間部に広がる2枚の棚田を利用して、稲を育てながら太陽光で発電する実証プロジェクトが進行中だ。58枚の太陽光パネルを田んぼの上部に設置した状態で、田植えから2カ月が経過した。太陽光パネルの下でも稲は順調に育っている。発電した電力は農家の新たな収入源になる。
太陽光発電の収益性が最大の課題
実際に田んぼを耕して苗を植える作業は通常どおり農家が手がけた(図6〜図8)。棚田は形が不規則なため、周辺部には田植え機で苗を植えることができない。従来から手作業で植えてきたが、新たに太陽光発電の支柱の周辺も手作業が必要になり、作業量が増えることがわかった。営農型の太陽光発電の課題の1つである。
順調に行けば9月中旬には稲の刈り取りが始まる。刈取時には大型のコンバインを使うため、太陽光パネルの高さを3メートルまで引き上げる。収穫した米の量や品質は隣接する棚田の米と比較して、太陽光発電による影響を検証する予定だ。「農家さんの見立てでは、現在までのところ順調に育っている」(実証プロジェクトを担当する福永博建築研究所の草野寿康氏)。
太陽光パネルを設置した棚田には、気象状態を観測するために各種の計測器を設定してある。日射量や照度のほか、温度・湿度、風速・風向、気圧・雨量まで測定して、稲作と太陽光発電の効果を細かく分析するためだ。真夏には田んぼの温度が上昇して稲に悪影響を及ぼすこともある。太陽光パネルで影ができることによって、温度の上昇を抑えて稲作に好影響をもたらす可能性も考えられる。
一方で最大の課題は収益性だ。実証プロジェクトはNEDOの予算で実施するため、固定価格買取制度を適用しない形で九州電力に売電する。1kWhあたりの売電価格は13円になっている。プロジェクトが終了した後も発電を続ける場合には、固定価格買取制度を適用して売電する方針である。
2015年度の買取価格は27円(税抜き)だが、プロジェクト終了後の2017年度には20円台の前半まで下がる見通しだ。年間の発電量が1万5000kWhとして、売電収入は30万円強になる。農家の副収入として魅力的な金額とは言いがたい。加えて発電設備の運転維持費もかかる。
それでも「米と発電の二毛作」に対する農家の期待は大きい。三瀬村でも農家の後継ぎが減少する問題を抱えている。太陽光発電で新しい農法に取り組みながら、少しでも収入を増やすことができれば、若者の関心を呼ぶきっかけにもなる。佐賀県の棚田で始まった営農型の太陽光発電が成功すれば、全国各地に広がる可能性は大いにある。
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