電力は水素と超電導の蓄電池に貯蔵、技術で走るクリーンエネルギー先進県:エネルギー列島2015年版(15)山梨(3/3 ページ)
再生可能エネルギーに加えて水素の普及を目指す山梨県で先端的な実証プロジェクトが進んでいる。太陽光と小水力発電の余剰電力を水素に転換して貯蔵・再利用するほか、太陽光の出力変動を超電導の蓄電システムで安定化させる試みだ。森林資源を利用した木質バイオマス発電所の建設も始まる。
トンネルの湧水まで発電に使う
山梨県は日照時間が日本で最も長い場所として知られている。恵まれた自然環境を生かして、太陽光を中心に小水力とバイオマスを加えた3種類の再生可能エネルギーを導入する取り組みが進んできた(図6)。小水力とバイオマスも自治体が推進する方法で県内の各地域に広がり始めている。
小水力発電では県の企業局が2010年度から5カ年計画で、設置場所の条件が違う4カ所にモデル施設を建設した(図7)。水道施設をはじめ、ダムの河川維持放流、砂防ダムの落差、さらに山梨県に多いトンネルの湧水まで利用する。
4カ所を合わせると発電能力は551kW(キロワット)になり、年間に320万kWhの電力を供給することができる。一般家庭で900世帯分の使用量に相当する。こうしたモデル施設の建設・運営ノウハウを生かして、今後は民間の発電事業者が同じような立地に小水力発電所を建設できるように支援していく。
もう一方のバイオマス発電では、自治体と民間企業の共同プロジェクトが始まった。県東部の大月市に地域の間伐材などを利用した木質バイオマス発電所を建設する計画だ(図8)。大林組グループが大月市の協力を得ながら、県内外の未利用材を調達して発電事業を展開する。
発電能力は14MWと大きくて、年間の発電量は3万世帯分に相当する。大月市の総世帯数は1万強で、その3倍にのぼる電力を供給できるようになる。総投資額は約100億円を見込んでいて、年間の売電収入は約20億円に達する見通しだ。2015年8月に着工して、2017年度中の運転開始を予定している。
燃料の木材は年間に15万トンが必要で、地元の森林から発生する間伐材などでまかなえる割合は2割程度にとどまる。残りの8割は半径50キロメートルの範囲にある東京・神奈川・埼玉の西部のほか、群馬・長野・静岡の一部の地域を含めて、公園などで発生する剪定枝(せんていし)を集める(図9)。
山梨県は関東以外で東京電力の管内に入る唯一の県である(ほかには静岡県の東部だけ)。関東の各地から調達した木材で発電した電力は東京電力の管内に送られる。そう考えると、県の境界線をまたいだ広い範囲でエネルギーの地産地消につながっていく。
*電子ブックレット「エネルギー列島2015年版 −関東・甲信越 Part3−」をダウンロード
2016年版(15)山梨:「農山村に水力発電を展開、太陽光と2本柱で自給率70%を目指す」
2014年版(15)山梨:「南アルプスからの清流で小水力発電、エネルギー地産地消の先進モデル」
2013年版(15)山梨:「富士山のふもとで太陽光を26倍に、2050年にエネルギー自給率100%へ」
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