酵素と微生物で燃料製造、日本の技術がタイで生きる:自然エネルギー(3/3 ページ)
タイのエネルギー問題は、輸送用燃料にある。ガソリンの負担が高いのだ。そこで、国産の植物原料からエタノールを生産し、ガソリンに添加するとり組みが進んでいる。タイ政府が掲げる2022年の大目標を実現するために、日本企業のバイオ技術が役立ちそうだ。
酵素生産細菌を利用
月島機械が投入した主な技術は「酵素オンサイト生産技術」と「同時糖化発酵技術」。
図4にバガスからバイオエタノールを製造するフローを示した。バガスがエタノールに変化していく経路を赤線で強調した。
図の左下にある囲みでは、セルラーゼ生産糸状菌(Acremonium cellulolyticus)が、セルロースを分解する酵素セルラーゼを工場内で作り出す。これが酵素オンサイト生産技術だ。
図の上にある前処理装置では、木質のリグニンとセルロースを分離し、糖化発酵槽に原料を移す。ここで先ほどのセルラーゼを加えて、セルロースからグルコース(ブドウ糖)を作る。同時に、糖化発酵槽に酵母を加えて、グルコースからエタノールを作り出す。これが同時糖化発酵技術だ。
完成した実証プラントの生産能力は年産100kL。「今回の実証運転によって、商業プラントの設計に必要なデータと、18タイバーツを実現するために必要なデータを集める。日本企業によるタイ国内の商業プラントが広がることを目指したとり組みだ」(NEDO)。
先進的バイオ燃料までの橋渡しも
商業生産に至っていない先進的バイオ燃料と、現在の糖蜜などを利用したバイオエタノール燃料の中間、いわば橋渡しとなる技術の開発にも、日本企業が参加している。対象はキャッサバだ(図5)。
タイのキャッサバ生産量は世界第4位であり、2000万トン(イモ分)を超える。キャッサバはイモを実らせ、このイモからでんぷんに富むタピオカを製造する。現在、タイ国内ではキャッサバを利用したバイオエタノール製造工場が多数稼働しており、生産能力は糖蜜によるものとほぼ同程度だ。
ただし、キャッサバの利用方法に課題がある。本来タピオカとして利用できるでんぷんを発酵させてバイオエタノールを製造していることだ。
NEDOとタイ科学技術省国家イノベーション庁は、2014年4月、タイ国内でキャッサバパルプを利用したバイオエタノールの実証プラントの運転を開始している(図6)。NEDOの委託先はサッポロビールと磐田化学工業。
この事業では、イモからでんぷんを抽出した後のタピオカ残渣(ざんさ)を利用する。これをキャッサバパルプと呼ぶ。キャッサバパルプには利用しきれなかったでんぷんが残っているため、両社が開発した高温発酵酵母を役立てる。
製造プラントでは乾燥キャッサバパルプを年間1000トン処理する能力があり、バイオエタノールの生産規模は年産80kL。同プロジェクトでも商用プラントの事業化に必要なデータを取得する。
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