航空機も電気で動く時代に、日本の技術が燃料とCO2を減らす:省エネ機器
世界中で大量の燃料を毎日消費する航空機の効率改善が急務だ。対策の1つは電動化である。従来の油圧による制御システムを電動に変えれば、燃料の消費量を削減することができる。日本のメーカーの技術を集めて、航空機の電動化を支援するシステムの研究開発プロジェクトが始まった。
次世代の航空機は軽量・低コストが最大の課題だ。機体の構造や素材、エンジンの改良に加えて、航空機を構成するシステム全体の効率を高めていく必要がある。航空機のシステムは電動化が急速に進み、日本のメーカーにとって参入しやすい分野が広がってきた。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2015〜2019年度の5カ年計画で、次世代の航空機の電動化を支援するシステムの研究開発プロジェクトを推進していく。日本が世界をリードできる5つの開発テーマを選び、委託先のメーカーを決定した。電動化に伴って増大する熱の制御システムや、離着陸時の脚の揚げ降ろしを電動化するシステムなどが対象になる(図1)。
航空機の心臓部とも言えるエンジンの電動化が進んだ結果、エンジンで使う潤滑油や発電機を冷却するための熱制御システムが重要な役割を果たすようになった。NEDOのプロジェクトでは高効率の熱交換器を開発して、エンジン用の熱制御システムの小型・軽量化を実現する計画だ(図2)。この第1の開発テーマは住友精密工業が担当する。
図2 エンジン用の熱制御システム(左)、電動の足揚降システム(中)とタキシングシステム(右)。ASACOC:Advanced Surface Air Cooled Oil Cooler(エンジン潤滑油を冷却するための熱交換器)、HFCOC:Hybrid Fuel Cooled Oil Cooler(同)、OFCV:Oil Flow Control Valve(エンジン潤滑油の流量を調整するためのバルブ)。出典:NEDO
第2の開発テーマは航空機の離着陸や地上走行にかかわるシステムで3種類ある。1つ目は航空機の脚を揚げたり降ろしたりするシステムを電動にする。2つ目は牽引車両やエンジンを使わずに地上を走行できる電動タキシングシステムだ。3つ目に磁界を利用した電磁ブレーキシステムを開発する。
いずれのシステムも油圧で制御する方式が主流だった。電動に変えることができれば、航空機に搭載する燃料を削減できるうえに、CO2(二酸化炭素)の排出量が少なくなって地球温暖化対策にも役立つ。3種類のシステムは第1のテーマと同様に住友精密工業が開発する予定だ。
このほかに最新のIT(情報技術)を駆使してコックピットのディスプレイや操縦バックアップシステムを開発する。電動化が進んで航空機の中に電子機器が増えていくと、大量の機器から発生する熱を抑えるための空調・冷却システムも不可欠になる。ヒートポンプと同様の冷媒を利用した熱の輸送システムを開発テーマに加えた(図3)。
コックピットディスプレイは横河電機、操縦バックアップシステムは東京航空計器、空調・冷却システムは島津製作所が開発を担当する。5つの開発テーマで成果を検証しながら、5年間のプロジェクト期間中に実用性の高いテーマに絞り込んでいく方針だ。2020年代の半ばに登場する次世代の航空機で採用を目指す。
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