電力自由化は“バラ色の未来”をもたらすわけではない(後編):電力供給サービス(4/4 ページ)
電力自由化の課題について解説する本稿。前編ではその前提となるグローバルにおけるエネルギー産業の4つのトレンドについて説明したが、後編では日本の電力システム改革における展望と課題について紹介する。
電力価格問題の解決法
それでは、電力価格、発電コスト、キャパシティー確保の問題についてどのような解決法が取れるのだろうか。
電力価格の問題の解決策について藤田氏は「慎重な価格調整メカニズムの導入が必要だ」と主張する。例えば、ドイツの電気料金は現在40円/kWhだが、そのうち発送電関連の費用は53%となる21円。再生可能エネルギーに必要な費用や税金が47%の19円という構造になっている。一方で日本は、トータルで29円/kWhだがそのうち84%となる24円分が発送電関連。税金その他は16%でわずか5円分にすぎない。
「日本の電気料金についても、発送電以外の料金の部分をどう設定するかが最も大きなポイントになる。うまく調整できるような形で設定できれば、発電事業者・消費者双方にメリットを生み出すことができるようになる」と藤田氏は述べている(図7)。
発電コスト問題の解決法
再生可能エネルギーの発電コストの問題については「FITと再生可能エネルギーの発電コストの問題は、規制緩和と業界努力で可能だ」と藤田氏は述べる。
例えば、風力発電の建設を考えた時、日本では28件もの法令に対し許認可を取得し、さらに3〜4年かかる環境アセスメントを受ける必要がある。藤田氏は「通常の企業にとっては、これらの手間や期間を考えれば、高コスト化し参入しにくい環境であることは否めない。規制緩和によりこれらが簡略化するだけで、発電コストは下げられるはずだ」と主張している。
電力キャパシティー確保の問題
社会インフラとしての電力システムを維持するために必要となる電力キャパシティー確保の問題については「国がある程度のキャパシティーを確保するという取り組みが必要になるだろう」と藤田氏は述べる。既にドイツでは2015年7月に電力容量を予約する容量リザーブの導入を発表。その他、国が電力容量をオークションで確保するようなキャパシティーマーケットが動き始めており、イタリアやフランス、ベルギーなども同様の方向性に進んでいるという(図8)。
「安定化に必要なガス火力が不採算になっている現状を考えれば、安定化の義務がある国が変わって必要な容量を押さえにいくしかない」と藤田氏は語っている。
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