太陽光による水素製造、宮崎で世界最高効率24.4%を達成:太陽光
再生可能エネルギーを利用したCO2フリーな水素製造が注目されている。実用化にはエネルギーの変換効率が課題で、世界中で効率向上に向けた研究開発が進んでいる。東京大学と宮崎大学はこのほど実際の太陽光による電力から水素を生成し、太陽光エネルギーの24.4%を水素として貯蔵することに成功したと発表。これは世界最高効率になるという。
東京大学と宮崎大学の研究グループ(以下、共同研究グループ)は2015年9月18日、太陽電池による電力で水を電気分解し、太陽光エネルギーの24.4%を水素として貯蔵することに成功したと発表した。これは世界最高の変換効率になるという。
共同研究グループが発電に用いたのは、小型の半導体素子にレンズで集めた強い太陽光を当てて発電する集光型太陽電池(図1)。同太陽電池の研究開発拠点となっている宮崎大学において、光学系の設計を改良した住友電気工業製の集光型太陽電池をTHK製の高精度太陽追尾架台に搭載し、宮崎の日照条件で発電効率31%を達成した。
さらに水の電気分解装置との電気的接続法を改良してエネルギー損失を抑え、水素へのエネルギー変換効率を向上した。太陽電池と水の電気分解装置の電流電圧特性を考慮して直列接続数を最適化することで、31%の高効率で発電した電力をほぼ損失ゼロで電気分解装置に導入できたという。水の電気分解における電力から水素へのエネルギー伝達効率80%を考慮すると、太陽光から水素へのエネルギー変換効率は24〜25%に達する計算だ。
次世代エネルギーとして期待される水素だが、現在その多くは化石燃料から製造されている。そこでCO2フリーな水素製造に向け、太陽光などの再生可能エネルギーの活用に期待が高まっている。しかし、課題となるのはその変換効率だ。
これまで、いわゆる人工光合成などの光触媒を用いた太陽光エネルギーによる水素製造では、水素へのエネルギー変換効率は10%未満にとどまっていた(関連記事)。10%を超える変換効率は、太陽電池と同様な半導体素子と水の電気分解のための電極を組み合わせた光電気化学装置によってのみ得られており、イスラエルの研究グループが2000年に達成した18.3%がこれまでの最高記録だった。
一方2015年8月にはオーストラリアの研究グループが、集光型太陽電池と水の電気分解装置の組み合わせで太陽光から水素へのエネルギー変換効率22.4%を達成している(関連記事)。しかしこれは実験室内の模擬太陽光源で得られたもので、今回の東京大学と宮崎大学は実際の太陽光を利用してこの記録を上回った(図2)。
共同研究グループによれば、今回の実験に使用した太陽電池と電気分解装置は既に市販されているものであり、現在の技術で実現可能であるという。集光型太陽電池は一般的な太陽電池より高価だが、海外の高照度地域では発電効率が高い分発電コストを低減することが可能なため、米国エネルギー省が目標とする1kg(キログラム)当たり4ドル以下への水素コスト低減も期待できるとしている。
今後については、集光型太陽電池の一層の効率向上と低コスト化、日照条件に合わせて太陽電池と水の電気分解装置の接続を逐次最適化する回路の開発と、水の電気分解装置については効率向上と貴金属触媒の代替による低コスト化、入力電流の変動に対応した耐久性向上を行う必要があるとしている。
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