北の大地で“水素の循環”を実現か、戦略ビジョンに意見を公募:電力供給サービス(2/2 ページ)
水素サプライチェーンの製造地の1つとして期待されている北海道では「北海道水素社会実現戦略ビジョン(素案)」を策定し、2015年10月5日〜11月4日にかけて意見公募を行っている。
バイオガスや風力による水素製造も実証事業で
北海道では水素の活用において、既に数多くの実証事業が進められている。鹿追町では、家畜ふん尿のバイオガスから水素を取り出し、町内の酪農家の牛舎や公共施設などに設置した燃料電池に供給し、照明や暖房の熱源などとして活用する取り組みが行われている。苫前町では、風力発電による電力で水素を製造し、有機ハイドライドとして貯蔵し、町内施設に運び、燃料電池の燃料として活用する。釧路市と白糠町では、小水力発電による電力で水素を製造し、地元の酪農施設や温水プールで利用する燃料電池や燃料電池車(FCV)などへ供給している。
自治体の独自の取り組みなども進んでいる。室蘭市では2015年2月に「室蘭グリーンエネルギータウン構想」を策定し、移動式水素ステーションやFCV、スポーツ施設へのエネファーム導入など、水素利用社会のモデル構築や実証などに取り組む方針を示す。
札幌市では2015年3月に策定した「札幌市温暖化対策推進計画」に基づき、温室効果ガス削減策として「札幌・エネルギーecoプロジェクト」におけるエネファーム導入補助に取り組んでいる他、次世代エネルギーパーク(円山動物園)へエネファームの率先導入による啓発や燃料電池自動車の普及促進のための基礎調査を行っている。稚内市では2011年4月に「環境都市わっかない」を宣言し、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーを活用した取り組みを展開する。
これらの実証事業や自治体の先進的な取り組みを基に、北海道内での水素の利活用や産業振興の可能性を探っていく。水素サプライチェーンの実現については、2015年度内に道内の水素製造可能量、水素利用可能量などを調査するとともに、水素サプライチェーンの構築と拡大に向けた課題の整理・検討を実施する(図2)。
水素サプライチェーンの広域展開へ
水素サプライチェーンの広域展開への取り組みも進める計画だ。水素を製造し貯蔵、輸送して供給することで水素を新たなエネルギーインフラとしていく。まず人口が密集している都市部や現在実証事業が行われている地域を中心に水素社会の実現性を検証し、その後北海道内全域に展開する。さらに地産地消の観点から余剰分を道内消費地へ輸送し、さらに余剰がある場合は首都圏への供給を行うことも計画する。ただ輸送に関する制度的な課題や技術的な課題は山積しており、これらの解決についてはさまざまな手法を検討していくという(図3)。
今回の意見公募は2015年11月4日までとしている。北海道ではこの公募で得られた結果を基に2015年内にビジョンを決定。2016年3月までにロードマップを決め、これらに沿って取り組みを進めていくとしている。
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