水素ステーションはどこまで普及したのか、今後を占う規制緩和と現在地:法制度・規制(3/3 ページ)
燃料電池車に注目が集まる一方で、遅れも指摘されている水素ステーションの整備状況は今どうなっているのか。「東京モーターショー2015」と同時開催の「SMART MOBILITY CITY 2015」に出展した水素ステーション普及団体である水素供給・利用技術研究組合(HySUT)のブースを取材した。
2016年3月までに83基を整備
HySUTブース壁面には、現時点で日本国内において水素ステーションが整備されている、もしくは整備が予定されている地点の一覧が地図として貼られている。これは2016年3月時点の計画を表したもので、これまでに合計83基の水素ステーションが整備される予定だという(図9)。これは移動式や固定式を合計した数だ。
政府の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、2015年内に四大都市圏を中心に水素ステーションを100カ所程度整備する計画を掲げているが、先述した通り実際の整備は遅れている状況にある。しかしHySUTとしてはまだ少ないFCVの普及台数を考えた場合、2016年3月に83基という整備数は、遅れてはいるものの妥当なラインだと認識しているという。今後は整備速度を上げられるかというのが焦点になる。
求められる規制緩和
水素ステーションの整備数拡大に向けた主な課題として挙がるのが、設備そのものの建設コストが高額である点と、稼働率が低い中で事業者側が運営コストをどう負担するかという点だ。こうした水素ステーションに関する課題の解決に向け、これまでも政府は補助金施策の他、規制緩和などを進めてきたが、HySUTのブース担当者は「普及促進に向けては、まだまだ見直すべき点が多い」と語る。
例えば先ほどHySUTブースではMIRAIへの水素充填が体験できると紹介したが、実際には日本では高圧ガス保安法 第5条により、ガソリンや軽油のように一般ドライバーが水素をセルフ充填することはできない。米国カリフォルニア州では、一定のトレーニングを受けた一般ドライバーにはセルフ充填を許可するといった仕組みを採用している。「セルフ充填が可能になれば水素ステーションの運営に掛かる人件費を大幅に削減できる」(ブース担当者)。
この他にも規格が未整備のため、海外で実績のある材料を国内の水素ステーションには利用できないといった問題や、水素ステーションの設置に関する距離規制など多くの課題があるという。2015年6月に内閣府が行った「規制改革実施計画」では、こうした水素ステーションに関する規制緩和の検討が進められており、先述したセルフ充填の件など一部は既に緩和に向けた検討が始まっている。ただし実現には少なくとも1年はかかる見込みだ。水素・燃料電池戦略ロードマップでは2020年までに水素ステーションの設置・運用コストを2014年比で半減させる計画となっている。
FCVと水素ステーションの関係は“鶏と卵”と紹介したが、今後しばらくは水素ステーションの先行設置が求められる段階に入りつつある。とはいえ一概に“規制緩和”といっても、日本の場合は人口密度が高く、水素ステーションの設置場所などのさまざまな規制については海外と比較して厳格にならざるを得ない部分もある。
水素ステーションの安全性と経済性の両立に向けた規制緩和についてはできるところからいち早く着手し、安全性に深くかかわる部分については、現在進められているさまざまな実証実験などの成果やデータを活用した精緻な議論と、迅速な判断の両立が求められるだろう。現在FCVと水素ステーションの自立普及時期目標として掲げられているのは2025年。政府が水素社会をアピールする場として設定している2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、どこまで整備を進められるかが1つのポイントとなりそうだ。
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