性能はリチウムイオンの3倍、硫黄とシリコンで作る次世代電池の実用化に前進:蓄電・発電機器
GSユアサは2020年を目標に、正負極材に硫黄とシリコンを用い、エネルギー密度が従来のリチウムイオン電池と比較して3倍という高性能な次世代電池の実用化に向けた開発を進めている。その中で実用化に向けた障壁の1つだった硫黄を用いる正極材の性質に関して、課題を解決することに成功した。
GSユアサは、金属リチウムの負極材料と「硫黄‐多孔性カーボン複合体」正極材料とを備えるリチウム硫黄電池の充放電サイクル性能を飛躍的に高めることに成功した。これは従来のリチウムイオン電池と比較して、より高いエネルギー密度を持つ次世代電池の実用化につながる成果だという。
硫黄は資源的に豊富かつ低コストであり、環境有害性が低い。さらにその理論容量は1675mAh/gと、従来のリチウムイオン電池用正極材料に利用されている材料と比較して、非常に高いという特性がある。例えば日産の電気自動車「リーフ」に搭載しているリチウムイオン電池の正極には、マンガン酸リチウムが用いられている。マンガン酸リチウムの理論容量は148mAh/gだ。
もう1つ正極として利用されることが多いコバルト酸リチウムの理論容量も274mAh/g程度であり、どちらも硫黄と比較すると圧倒的に容量が少ないことが分かる。このことから硫黄は、より高性能な次世代リチウムイオン電池を実現する正極材料として期待されている。今回GSユアサが正極材に利用した硫黄-多孔性カーボン複合体の理論容量は1000mAh/gだ。硫黄そのものは絶縁体であるため、多孔性カーボンの孔に硫黄を充填することで電子伝導性を付与している。
夢の材料には課題がある
しかしこの硫黄を正極材として利用するには課題があった。その理由は正極の放電反応により生成される多硫化物(反応中間体)の電解液への溶解度が高いため、正極から多硫化物が容易に溶出してしまうことが1つ。もう1つが溶出した多硫化物が正負極間で酸化還元反応を繰り返すことで自己放電が生じるため、充放電サイクルに伴い容量が大きく低下してしまうという点だ。これが硫黄の実用化の壁となっていた。
今回GSユアサは、電解液添加剤により多硫化物の溶出を抑制するとともに、カチオン交換膜をセパレータに用いることで、多硫化物の正負極間の移動に起因する自己放電を防止した。その結果、硫黄‐多孔性カーボン複合体正極材料当たりの理論容量(1000mAh/g)を損なうことなく、この材料を用いたリチウム‐硫黄電池の充放電サイクルに伴う容量低下を止めることに成功。つまり充放電サイクル性能(寿命)を飛躍的に高められたことになる。
GSユアサは2014年に、シリコン‐硫黄電池の正負極材料あたりのエネルギー密度が、従来のリチウムイオン電池の3倍であること発見している。このシリコンと硫黄を用いた二次電池が実現すれば、EVなどの走行距離が大幅に向上することが期待される。GSユアサは2020年に同電池をサンプル出荷することを目指しており、今回発表した成果はこれに貢献する成果となる。だが今回負極材料に利用しているのは金属リチウムだ。同社では今後、負極にシリコン系材料を用い、実用化に向けその充放電サイクル性能をさらに高めていく方針だ。
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