バイオガス発電で生まれる液体肥料、小麦の栽培に使ってリサイクル:スマートアグリ
生ごみなどの食品廃棄物を発酵させたバイオガスを燃料に利用する発電設備が各地に広がってきた。バイオガスを生成した後に残る液体には窒素やリンが含まれていて、有機性の液体肥料としても利用価値が高い。三重県の農地で小麦の栽培に利用する実証試験が始まる。
食品廃棄物や農業副産物を利用してバイオガス発電に取り組むベンチャー企業のリナジェンが、バイオガスの副生物を利用した実証試験を三重県で開始する。県中部の多気町(たきちょう)に広がる小麦栽培の農地を対象に、バイオガスの生成過程で発生する液体肥料(液肥)を散布して生育状況や防虫効果を検証する試みだ(図1)。
実証試験の場所は多気町内の6カ所で、合計7100平方メートル(71アール)の農地で実施する(図2)。各地の営農組合などが協力して、11月17日(火)と19日(木)の2日間に分けて液肥を散布する予定だ。液肥は京都府の「京丹後市エコエネルギーセンター」のバイオガス発電プラントからタンクローリーで運搬する。
バイオガス発電は生ごみなどの食品廃棄物を発酵させて、メタンが主成分のガスを生成して燃料に利用する発電方法である。発酵によってバイオガスを生成した後に残る液体には、窒素やリン、カリウムを多く含むため、生物由来の肥料として農作物の栽培に利用することができる。まだ国内では実施例が少なく、バイオガス発電を拡大するうえで課題の1つになっている。
すでに大規模に実施している好例が京丹後市エコエネルギーセンターである。市内の農家110人と連携して、水田や畑に液肥を散布して効果を上げている。リナジェンは同センターの協力を得て多気町の実証試験を進めていく。液肥の供給を受けるほか、散布する機械も借り受ける。散布後の検証結果は京都大学とリナジェンが共同でとりまとめる。
リナジェンは農地を使った実証試験に先立って、多気町にある三重県立相可(おうか)高等学校のハウス農場で栽培試験を実施している(図3)。イチゴや空芯菜を植えたプランターに液体肥料の「原液」と「ろ液」(原液をろ過したもの)、さらに通常の化学肥料を散布して生育状況を比較する。評価項目は色・樹高・葉長・葉幅・葉柄長・病害虫の6項目で、生徒が散布も担当して3種類の肥料の違いを観察中だ。
多気町の実証試験を通じて、リナジェンはバイオガス発電に伴う液肥の事業化を目指す。散布対象の農作物を増やしていくのと並行して、液肥を使った農作物のブランド化や食品廃棄物の排出事業者とも連携を拡大する。農作物から食品を作り、その廃棄物を発電に利用しながら肥料を使って農作物を育てることが可能になれば、環境にやさしい循環型の食品リサイクルの仕組みができあがる。
関連記事
- 食品廃棄物からバイオガスで発電、500世帯分の電力と温水・燃料を作る
大阪府で初めて固定価格買取制度の適用を受けたバイオガス発電プラントが運転を開始した。食品工場から大量に発生する廃棄物を1日あたり17トンも処理して、250kWの電力のほかに温水と燃料を作ることができる。発電プラントにはドイツ製のシステムを採用した。 - 大型風車65基を高原に新設、街には太陽光とバイオマス
風力発電が活発な三重県の高原地帯で新しい発電所の建設工事が2カ所で進んでいる。そのうちの1つは全体が稼働した時点で日本最大の風力発電所になる。都市部では太陽光発電とバイオマス発電の導入プロジェクトが拡大中だ。バイオマスは地域の森林資源を利用して林業の振興にも役立てる。 - ようやく太陽光発電が増えてきた、竹を燃料にバイオマス発電も進む
かつては再生可能エネルギーに先進的に取り組んだ京都府だが、最近の導入量は伸び悩んでいる。「エネルギー自給・京都」を長期の目標に掲げて、太陽光発電を中心に拡大策に乗り出した。ゴルフ場や工場の跡地でメガソーラーの建設が進み、バイオマス発電も再び広がりを見せる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.