効率の悪い火力発電は撤廃へ、ベンチマークで電力業界を規制:法制度・規制(3/3 ページ)
国全体のCO2排出量の4割以上を占める火力発電に対して、新たな規制の枠組みを導入する方針が固まった。石炭・LNG・石油による発電効率の目標値を設定したうえで、2種類のベンチマーク指標を使って事業者ごとに目標値の達成を義務づける。発電効率が低い老朽化した設備の廃止を促す。
省エネ法に火力発電のベンチマークを導入
残る石油火力は燃料費が高いことから発電設備の新設計画は想定しない。新基準では石炭火力を下回る39%を目標値に設定することになる。こうして3種類の火力発電の目標値を決めたうえで、事業者ごとの発電効率を評価するためにベンチマーク指標を導入する。経済産業省は2通りの方法でベンチマーク指標を算定できるようにする方針だ。
1つ目は発電電力量の実績値をもとにしたベンチマーク指標である。石炭・LNG・石油の目標値に対して、発電効率と発電比率の実績値をあてはめて計算する(図7)。数値が1.00以上になれば、火力発電の全体で目標値を上回ることになる。かりに石炭火力の発電効率が低めの事業者でも、LNG火力の発電効率と比率が高ければ基準をクリアできる。
2つ目のベンチマーク指標は2030年のエネルギーミックスを前提に発電効率を計算する(図8)。この計算方法では石炭とLNGの発電効率を両方とも高めないと目標値を達成することが難しくなる。その代わりに石油火力は発電効率が低くても算定比率が小さいために影響は少ない。
経済産業省は2種類のベンチマーク指標を導入して、省エネ法(正式名称は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」)で定めるベンチマーク制度に適用する予定だ。省エネ法のベンチマーク制度は特定の業種を対象に、中長期に達成すべき基準値をベンチマークとして規定している。
火力発電にベンチマーク制度を適用する時期は未定だが、早ければ2016年度にも実施する可能性がある。実際に電力会社10社とJ-Power(電源開発)の現在の状況で算定した結果、実績値ベースの1つ目のベンチマーク指標で達成している事業者は1社もなかった(図9)。一方のエネルギーミックスを前提にしたベンチマーク指標では2社が基準値をクリアしている。
経済産業省は2社の事業者名を公表していないが、2014年度のCO2排出係数(発電電力量に対するCO2の排出量の比率)から考えると、CO2排出係数が最も低い東京電力と中部電力が該当する。両社ともに高効率のLNG火力発電設備の導入を積極的に進めてCO2排出係数を引き下げてきた。残る8社の電力会社とJ-Powerも火力発電の高効率化を急がなくてはならない。
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