リニアモーターカーに続く超電導の活用、鉄道総研の描く夢:小寺信良のEnergy Future(6/6 ページ)
鉄道に関連する全ての技術を研究する鉄道総合技術研究所。2027年開業予定のリニアモーターカーも、同研究所から巣立とうとしている技術である。このリニアモーターカーで得た知見により、さらに幅広い領域への貢献が期待されているのがさまざまな「超電導」技術である。鉄道総合技術研究所の超電導技術について、小寺信良がお伝えする。
急激な電力変動を抑える技術
―― 先日「超電導フライホイール蓄電システム」の実証実験が始まりました。鉄道でフライホイール蓄電システムという技術はよく使われてるんですか?
高井氏 現在、フライホイールは京浜急行の逗子線で使われています。そこは普段電車がいっぱい走るところじゃないので、変電所が小さいんですね。ところがある時間帯だけ列車が重なることがあるみたいで、そういう時にフライホイールから電気を補充するという使い方をされています。
フライホイールは電力貯蔵用としては、軸受のメンテナンスが大変だということで実用化はそんなに多くないんです。それを超電導によってフライホイールを浮かせることで、メンテナンスフリーにしようと。これまでも超電導フライホイールはあったんですが、回転支持はできてたんですけど、浮かせることが難しかった。われわれは浮かせるところにも、超電導磁石を使います。
超電導フライホイールも、超電導ケーブルも、基本的には電力で困っているところを「ちょっと助ける」というものなので、実はこれらの技術は競合します。ただし、鉄道ではどこの駅で、どういう運転状況の時に必要かで、使える技術が決まるんです。よくどちらがいいのかと聞かれるのですが、一般的にどちらがいいという答えはないんです。だから、いろんな方法を研究しておかないといけないんですよね。
鉄道以外への超電導技術の活用
―― フライホイール蓄電システムのように、鉄道とは関係ない領域への技術活用も進めていくのですか?
高井氏 鉄道総研がリニアモーターカーを実現するために研究してきた超電導技術は主に3つあります。1つ目が超電導磁石、2つ目がリニアモーターで、3つ目がコイルです。超電導技術は非常に幅広いものですが、これらの3つの技術開発の過程でさまざまな派生的な技術が生まれています。
例えば、超電導磁石。非常に強い磁石の研究開発で、それに派生する技術としてあるのが、低温技術です。低い温度を作る冷凍機を開発する技術とかですね。それから断熱技術。外から熱が入らないようにいかに性能のいい魔法瓶を作るかが課題でした。
また、リニアモーターは、磁石を直線(リニア)に並べて、それを動力として使うという技術ですが、その原理を応用したレールブレーキがあります。鉄道ブレーキは車輪の回転を制輪子を押し付けて止めるんですけど、どんなに強く押し付けても車輪がレールのところで滑っちゃうんですよね。そこで車上の磁石の力でブレーキをかけようというものです。
コイルの技術を使ったものとしては、非接触給電。今、電線がなくても走れるような電車を幾つか考えていて、そことの電気のやりとりをどうするか。プラグを突っ込んでもいいんですけど、もうちょっとスマートに駅の下に何か置いておいて、駅に止まっている間に電磁誘導で非接触で充電してやって、次の駅でまた充電するとか。
あとは磁気の応用として、磁気冷却があります。磁気をある物質にかけると、温度を下げるという作用が出てくるというのがあってですね、それを応用した冷却機。これは通常の冷却機よりも、効率が高いものができる可能性がある。これについても研究を進めています。
リニアモーターカーの開発は、国家プロジェクトとして進められてきましたが、政府の評価委員会で、基礎技術はできて、運営に向けて進むことは可能であるという評価も得ました。その後、JR東海が営業主体として指名を受けて、今建設をされているわけですが、われわれはリニアモーターカーそのものの開発については、主たる役割を終えたと思っています。
いろいろ紹介してきましたが、超電導技術は非常に幅広いものです。また、リニアモーターカーや超電導ケーブルの研究などで生まれた技術も、鉄道に使うというよりも、もっと応用範囲が広いんですね。ですから、技術活用の対象範囲を、もっと広げていきたいと考えています。
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