「未利用熱エネルギー発電」が前進、熱から電力へ変換効率が11%まで向上:蓄電・発電機器
自然界に存在するエネルギーのうち60%以上は熱のまま放出している。大量に存在する未利用の熱エネルギーから電力を作り出す発電技術の開発が進んできた。産業技術総合研究所は熱から電力へ変換する新モジュールを開発して、変換効率を11%まで高めることに成功した。
われわれが利用できるエネルギーは大きく分けて2種類ある。自然界に存在する化石燃料や原子力、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーを含めた「1次エネルギー」と、1次エネルギーを変換して作る電力や都市ガスなどの「2次エネルギー」である。このうち1次エネルギーの60%以上は熱として放出するだけで有効に使われることはない。
世界中で膨大な量になる熱エネルギーから効率よく電力を作ることができれば、未来に向けてエネルギー不足の心配がなくなるかもしれない。夢のような「未利用熱エネルギー発電」の技術開発が日本と米国の研究機関で進んでいる。国内では産業技術総合研究所(略称:産総研)が熱電変換技術の開発に取り組み、このほど新たな成果を発表した。
熱エネルギーを電力に変換するには、性質が違う2種類の材料を組み合わせて、温度差(熱)で電圧(電力)を発生させる。産総研は熱から電力を生み出す熱電変換材料として、鉛とテルルの化合物である鉛テルライド(PbTe)を採用した。さらにマグネシウムとテルルの化合物であるマグネシウム・テルライド(MgTe)を組み合わせて2つ目の材料を開発した。
熱電変換効率を高めるために、マグネシウム・テルライドをナノ(1ミリメートルの100万分の1)単位の大きさで鉛テルライドに埋め込んだ。この2種類の熱電変換材料を組み合わせてモジュールを作り、上下に熱を加えると電力が発生する仕組みだ(図1)。
産総研はナノテクノロジーで作った熱電変換材料を使って、サイズが2×2×2.8ミリメートルの2種類の素子にまとめた。この素子のペアを8つ搭載して1つのモジュールを構成する(図2)。実際にモジュールの上下を600度の高温と30度の低温に設定した結果、最大で3.55W(ワット)の電力が発生した。熱から電気の変換効率は従来の限界だった7%程度から8.8%に向上した。
熱電変換材料に採用した鉛テルライドは300〜700度の範囲で高い熱電性能を示す。このほかに100度くらいの温度でも熱電効果を発揮する化合物にビスマス・テルライド(Bi2Te3)がある。そこで熱電変換モジュールを2段構造にして、上段に鉛テルライド、下段にビスマス・テルライドを使った素子を組み合わせたところ、最大電力は2.34Wに下がるものの、変換効率は11%に改善した(図3)。
解析用のソフトウエアでシミュレーションした結果では、一段型の場合に変換効率は最大12.2%、二段型では15.6%まで引き上げることが可能だ(図4)。もし15%程度になれば、現在の太陽電池のエネルギー変換効率に近づく。
産総研は熱電変換モジュールの素子の抵抗を小さくするほか、素子の配置を変えることで最大電力の増加と変換効率の向上に取り組んでいく。合わせて材料に使う鉛を毒性の少ない銅などに変更する一方、資源量が少ないテルルに代えて硫黄などを使うことで、熱電変換モジュールの実用性を高める計画だ。民間企業と実証実験を実施しながら、2020年までに実用化を目指す。
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