持ち株会社へ移行の東京電力、発電子会社は“運営ノウハウ”でもうけを狙う:エネルギー管理(2/2 ページ)
東京電力は、2016年4月に分社化予定の発電子会社「東京電力フュエル&パワー(FPC)」の事業戦略について説明。高効率な次世代火力発電所の導入による燃料コストの削減や、発電所の効率的な運営などの強みを生かし、新たなビジネスとして外部に提供することも検討する。
設備対策における「3本の矢」
燃料費の削減については発電端効率や発電単価をベースに、石炭火力や最新のコンバインドサイクル方式の発電設備である「MACC(Most Advanced Combined Cycle)」など、複数の発電設備を組み合わせて経済性を考慮した発電を進めていく。「FPCは発電量の多くをLNG(液化天然ガス)が占めるが、もし資源価格が高騰したときには石炭火力が強みを発揮することになる。このようにバランスを見て発電源を変えるという運用により、競争力を高めていく」(酒井氏)。
発電における燃料使用量の削減については、短期、中期・長期をそれぞれ矢に見立て、「設備対策3本の矢」として火力発電設備の高効率化に向けた取り組みを推進する。今後3年間を見据えた短期的な戦略としては、高い熱効率を持ち燃料使用量を抑えられる高効率LNG火力発電設備の稼働を前倒していく。川崎発電所では2016年1月から、燃焼ガス温度を1600度級まで高温化することで、世界最高水準の熱効率61%を実現するコンバインドサイクル発電設備「MACCII」が稼働する予定だ。
その後中期的には既に稼働しているコンバインドサイクル方式の発電設備を部分改修して、発電能力の増強を進める。長期的には経年化力をリプレースし、MACCIIなどの最新設備に置き換えることで、さらなる燃料使用量の削減とCO2削減を進めていく計画だ(図2)。
目指すは「運営ノウハウ」の展開、“外で稼げる”体制構築へ
2015年度のFPCの営業費用は、約3.0兆円。このうち燃料費が約90%で、残り10%が固定費になるという。火力発電所運営事業の生産性向上では、この大部分を占める燃料費の削減を目指していく計画で、既に複数の取り組みを展開している。火力発電所の運営効率を高めるために重要なのは、主に設備を停止させなくてはならない定期点検の効率・短縮化と、トラブルによる設備の停止を未然に防ぐことだ。稼働率を高めることは、燃料費の削減に直結する。
定期点検の効率化については、トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」におけるカイゼン手法の導入や、非効率作業の洗い出しなどを開始したという(図3)。こうした施策によって、世界最高レベルの定期点検工期を目指す。さらに発電設備のトラブルにつながりやすい重点監視項目を定め、トラブルが起きる前に重要部分をメンテナンスする体制を構築することで、計画外の設備停止を防いでいく。
こうした予兆管理によるトラブルの未然防止については、将来、設備に取り付けたセンサーから得た稼働情報を利用するなど、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)の活用も検討しているという。
FPCではこうした火力発電所の効率的化に向けた運営の改善を進め、短期的にはコスト削減の実現を目指す。長期的にはこれらを「FPC式」として確立し、火力発電所の運営におけるオペレーションやメンテナンスを外部企業に提供していくといった、新たなビジネスモデルの創出も検討していく方針だ。
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