再生可能エネルギーを最大限に増やす、固定価格買取制度の改革案:法制度・規制(3/3 ページ)
太陽光発電を中心に急速に拡大を続けてきた再生可能エネルギーの市場環境が大きく変わる。従来の固定価格による買取制度を改正して、太陽光や風力には変動価格の新方式を導入する見込みだ。発電設備の認定時期も見直すほか、買取義務を小売電気事業者から送配電事業者へ変更する。
送配電事業者が買い取る仕組みに
再生可能エネルギーの導入を阻む課題の1つに「出力制御」がある。地域単位で電力の供給量が需要を上回ってしまう可能性が生じた場合に、電力会社が必要に応じて発電事業者の設備の出力を抑制できる制度だ。すでに九州電力が5月のゴールデンウイークの期間中に、鹿児島県の種子島で1日だけだが出力制御を実施した。
出力制御の対象になった発電事業者は1日分の売電収入が減ることになる。こうした出力制御による不利益を特定の発電事業者だけに負わせないように、地域の発電事業者が共同で負担するルールも新たに整備する。実際に出力制御が必要になった場合には、大規模な発電設備の出力を優先的に抑制する代わりに、その事業者が逸失した利益を中小規模の発電設備の事業者が応分で負担する仕組みだ(図7)。
現在のところ出力制御を実施する可能性があるのは、東京・中部・関西を除く全国7地域である。電力の需要が大きい東京・中部・関西では、再生可能エネルギーの電力を受け入れる許容量に余裕がある。2015年4月に発足した「電力広域的運営推進機関」(略称:広域機関)が全国レベルの需給バランスを調整する役割を担い、再生可能エネルギーを含めて地域間の電力供給の最適化を図る体制になった(図8)。
続いて2016年4月に実施する電力の小売全面自由化も、再生可能エネルギーの供給方法に影響を及ぼす。小売全面自由化に伴って電力会社の発電・送配電・小売の各部門は個別の事業者として扱われる。現行の制度ではFITの対象になる電力は電力会社と新電力が買い取ることになっているが、小売全面自由化後は事業者の区分が変わって小売電気事業者が買い取る。
今後も再生可能エネルギーの導入量を拡大するためには、広域機関を中心に各地域の送配電事業者(電力会社の送配電部門)が発電量と使用量を見極めながら調整することが望ましい。新しい制度ではFITの電力を買い取る義務を小売電気事業者ではなくて送配電事業者が負う形に変更する方針だ。
送配電事業者が買い取ることによって電力の供給方法も変わる。主に3つの方法を新たな制度として規定する(図9)。1つは卸電力取引所を通じて需要に合わせた供給を可能にする。もう1つは取引所の電力を活用できない沖縄や離島に限定して、送配電事業者が複数の小売電気事業者に電力を配分する方法だ。このほかに発電事業者と小売電気事業者のあいだで契約が成立する場合には従来と同様の供給形態になる。
政府は委員会の案をもとに再生可能エネルギー関連の法改正の手続きを早急に進める。中核の法律はFITを定めた「再エネ特措法」(正式名称:「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」)である。国会の審議を経て改正案を成立させる必要があるため、買取価格の決定方式の変更を含めて主要な対策は2017年度から実施する可能性が大きい。
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