水素+再生可能エネルギーで電力と燃料を作る、CO2削減の切り札に:2016年の電力メガトレンド(3)(3/3 ページ)
火力発電に伴って大量に発生するCO2の削減が世界全体で緊急課題になっている。CO2を排出しない再生可能エネルギーに加えて水素を活用する取り組みが日本の各地で始まった。下水処理で発生するバイオガスや太陽光・風力・小水力発電から水素を製造して、燃料電池で電力と熱を作り出す。
2020年に向けて北海道から東京へ
再生可能エネルギーから水素を製造する試みは北海道にも広がってきた。東部の白糠町(しらぬかちょう)にあるダムに小水力発電所を建設して、発電した電力から水素を製造する。発電能力は220kW(キロワット)になる見込みで、水を電気分解して1日に1000立方メートル程度の水素を作ることができる(図9)。
製造した水素はトレーラーに貯蔵して周辺地域まで運び、酪農家や温水プールに設置した燃料電池で電力と温水を供給する計画だ。冬の寒さが厳しい北海道ではエネルギーの利用量が多いことから、電力と温水の両方を供給できる燃料電池の利用価値は大きい。環境省が支援する実証事業として、2015年度から5年間のプロジェクトで効果を検証する。
北海道は水力のほかに太陽光・風力・地熱・バイオマスにも恵まれて、再生可能エネルギーの宝庫である。ただし道内の電力需要は他の地域と比べて小さく、送配電ネットワークの容量にも限界があるため、再生可能エネルギーの導入量に制限が生じてしまう。発電した電力を水素に転換して需要の大きい地域に送ることができれば、再生可能エネルギーを増やして新しい産業の創出にもつながる。
そこで北海道庁は道内で作った再生可能エネルギーから水素を製造して、需要が大きい首都圏などに供給する水素サプライチェーンの構想を検討中だ(図10)。豊富な資源を活用してCO2フリーのエネルギーを大量に作り、全国各地に供給してCO2排出量の削減に貢献する。具体的な実行計画を2016年3月までにまとめて、ロードマップとして発表する予定になっている。
北海道をはじめ多くの地域で進み始めた水素製造プロジェクトのターゲットの1つは、2020年に開催する東京オリンピック・パラリンピックである。福島第一原子力発電所の事故で不安視される日本のエネルギーのイメージを払しょくするためにも、国を挙げて水素を活用した最先端のエネルギー供給システムを構築する必要がある。
再生可能エネルギーから水素を作るほかに製鉄所などで発生する水素も加えて、首都圏の水素ステーションや各施設の燃料電池に供給する予定だ。オリンピック・パラリンピックの運営に必要な車両に燃料電池車と燃料電池バスを導入する一方、競技場や選手村には燃料電池を設置して電力と熱を効率的に利用できるようにする(図11)。
日本の水素エネルギーと燃料電池の技術を世界にアピールしながら、未来に向けた災害に強い街づくりを印象づける狙いだ。同時に日本の関連技術やシステムを海外に輸出する機会を拡大して、新しいエネルギー産業を生み出すことができる。5年後を目指してCO2フリーの水素を拡大する取り組みは加速していく。
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