家庭向けの電力小売自由化、4月1日スタートへ準備が進む:動き出す電力システム改革(54)(2/2 ページ)
いよいよ開始まで2カ月を切り、小売全面自由化の実施体制が整ってきた。すでに169社が小売電気事業者の登録を済ませて、割安な料金プランで顧客を拡大中だ。契約変更の申込件数は早くも5万件を超えた。全国各地で変更の手続きを迅速に処理するスイッチング支援システムは3月から稼働する。
小売電気事業者の65%は関東に本社
自由化の当初は市場規模が大きい首都圏を中心に競争が広がる。すでに登録を完了した小売電気事業者のうち、半数近くは東京都に本社を置いている(図4)。東京を中心に関東全体では109社に達して事業者の65%を占める。関西(近畿)では22社、九州でも14社が参入して、競争状態が生まれてきた。
その他の地域では中部が9社、北海道・東北が8社、中国・四国が7社で、北陸と沖縄はゼロである。ただし関東・関西に本社を置く小売電気事業者でも、北陸や沖縄を含めて複数の地域で電力を販売する計画を発表している。市場規模が小さい地域にも競争状態は徐々に広がっていく見込みだ。
すでに小売電気事業者が契約変更(スイッチング)の申し込みを受け付けた件数は5万を超えた。電力システム改革を推進する電力広域的運営推進機関(広域機関)が1月29日の時点で集計したところ、東京電力で3万件強、関西電力で2万件強の契約変更が決まっている(図5)。
このデータは小売電気事業者が電力会社の送配電部門に任意で通知した件数を集計したもので、実際に各社が受け付けたスイッチングの申込件数はもっと多くある。広域機関は継続して毎週金曜日に、前週までの申込件数を公表することにしている。3月末の時点で、どのくらいまで件数が増えているか注目だ。
一方で課題も残っている。電力会社から別の事業者に契約を変更するにあたって、電力の使用量を30分ごとに計測できるスマートメーターが必要になる。通常は小売電気事業者が手続きを完了して2週間後にはスマートメーターの設置も完了して、新しい契約に合わせて電力の供給を開始できる。
電力会社は家庭向けにスマートメーターの設置を進めているが、設置率は地域によってばらつきが大きい。2015年12月末の時点で、最も進んでいる関西は39%だが、東京は14%、中部は7%で、最も遅れている沖縄は1%強にとどまっている(図6)。
電力会社は管内の地区ごとにスマートメーターの切替作業を実施しながら、スイッチングを申し込んだ家庭には優先的にスマートメーターを設置する。ただしスイッチングの件数が急増した場合には、スマートメーターの設置が間に合わないケースも出てくる。そうした事態を想定して、小売電気事業者は利用者に対して適切な情報提供と対応策の説明を準備しておく必要がある。
3月1日には広域機関が運営する「スイッチング支援システム」も稼働する(図7)。このシステムを利用すると、小売電気事業者は電力会社とのあいだでスイッチングに必要な手続きを短期間で完了できるようになる。電力会社の送配電部門(2016年4月から一般送配電事業者)にもスイッチングに対応するシステムが必要で、10社すべてが3月末までに稼働させる予定だ。
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