木質バイオマスの正確な成分量計測、世界初の新手法で実現:自然エネルギー
京都大学 理工学研究所と理化学研究所らの共同研究グループは木質バイオマス中のさまざまな成分物質量を正確に決定する手法の開発に、世界で初めて成功したと発表した。木質バイオマスからバイオエネルギーや製品原料を獲得する工程の確立に貢献するという
化石資源の代替資源として期待される木質バイオマスに含まれている各成分の分子量や化学構造は多岐にわたる。しかしこれまで各成分の物質量を正確に把握する手法は確立しておらず、バイオエネルギーとしての利用など、木質バイオマスのさらなる利活用を推進するための障害となっていた。
木質バイオマスの溶液中にどのような物質がどの程度の量存在しているかを解析するには、NMR(核磁気共鳴)法の一種であるHSQC(Heteronuclear Single Quantum Coherence)法が最も有効とされており、現在広く使われている。
しかしこの手法で得られた物質量には、成分ごとに異なる分子量や化学構造に依存した歪みが含まれており、得られた値は真の値とは異なるという課題があった。研究グループによれば、最大50%程度の誤差が生じる場合もあるという。
そこで研究グループでは、同じくNMR法の一種であるTROSY(Transverse Relaxation Optimized Spectroscopy)法という手法によってこの歪みを求め、このデータに基づいてHSQC法によって推測した物質量を較正することにより、より正確な物質量を決定するTAF(tolerant of any factors)法を開発した。木質バイオマスを用いてこの手法の有効性を検証した結果、正しい物質量が得られる事が確認できたという(図1)。
図1 (グラフ左)リグニン2量体(分子量320)とカードラン(分子量81000)が当量溶解した溶液に関し、HSQC法のピーク強度から物質量を決定すると、分子量が大きいカードランの物質量が低く見積もられてしまう。(グラフ右)一方、ピーク強度の歪みをTROSY法で見積もり、これを用いで物質量を決定すると両成分の物質量は同じになる出典:京都大学
研究グループは今回開発したTAF法は「物質量の定量に歪みをもたらすあらゆる因子を一網打尽にして排除する事ができるオールマイティな手法」であり、木質バイオマスからバイオエネルギーや各種製品の原料を効率的に獲得する工程を確立するのに貢献するとしている。
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